【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ46)

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270葉ページ46

「異能に恵まれ、出逢いに恵まれ、努力もせず、ただ運だけで太宰さんに認め讃えられ乍ら！貴様はその幸福にも気付かず己の悲劇ばかりに浸る愚物だからだ！」

(「あの人にあのような言葉、二度と云わせぬ！」
「戦果なき限り、あの人は僕を認めぬ」)

嘗ての芥川の言葉が敦の脳裏によぎる。

「『あの人』って……真逆、お前……ずっと？
なら『彼の人』、って云うのは……」

「僕はかつて、彼の人に恋をした。憧れた。
僅かな燐光さえも届かぬ、あの『どん底』で……彼の人は、光を湛えた目をしていた故に」

「───真逆」

「だが、彼の人に再会した時、彼の人───Aさんの横には、既に太宰さんがいた。
だからこそせめて、太宰さんに認めてもらう事で、彼の人の隣に並ぶ。僕の望みはそれだけだ」

「Aさん、に……」

かつて、入社した当時の彼女の言葉が頭をよぎった。

───(『名前は芥川……マフィアの中でも1、2を争う実力者』)

「そんな訳……」

「彼の人は僕をあくまで部下としてしか見ていない。決して認めてはおらぬ」

扉が開き、芥川は短くチッと舌打ちをして敦を突き放した。

「終着点へようこそ。決戦場へご案内しよう」

白鯨の上は風が吹き荒れ、遠目にヨコハマの街を一望することができた。

「良い眺めだ。あと十分足らずで白鯨の高度は復行限界を下回る。それを過ぎれば、たとえこの端末でも街への落下を防げない。
生き残るのは異能で身体強化した俺だけだ」

「成金背広。貴様ほどの強者を斃せば、僕も弱者では無くなるか？」

その問いに、フィッツジェラルドの口が弧を描く。

「保証しよう」

「……ならば。この身が幾つ砕けようと惜しくはない」

芥川の外套が蠢き、全身に纒わり付くかの様に変化する。

〈羅生門〉───天魔纏鎧

芥川とフィッツジェラルドが激突した。