【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ43)

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267葉ページ43

｛芥川あああああああッ！！｝

｛小癪…！｝

敦君のインカムから凄まじい戦闘音が聞こえてくる。

『おー、戦闘してるねー。若いっていいわねー』

「やれやれ……芥川君の独走癖は相変わらずだなぁ……仕方ない。
敦君、彼に係っている暇はない。先に進もう」

｛ですが…｝

『あー……一寸気が進まないけど、いいアイディアがあるよ』

私はインカムを白鯨から投げ捨てるように指示。そして───インカムを切った。

「Aもやるねぇ」

『私がやらなくても治がやってたでしょ…』

「バレた？」

《白鯨》
「娘？確か…ロンドンに留学中だよな？けど、あの子は…いや勿論あの子のことも愛してる。悪いが客人だ。また電話する。愛しているよ、ゼルダ」

フィッツジェラルドはそう言い残して電話をテーブルに置いた。

「さて…待たせたかな。短い別れだったな、少年。お探しのモノはこれか？」

「貴方が…白鯨の制御端末を守る警備？」

「俺がここまで登り詰めた秘訣その一だ。「仕事の一番大事な部分は他人任せにするな」。
ところでこの白鯨の重さを知っているか？」

「……？」

突然そんな話を始めたフィッツジェラルドに敦が怪訝そうな顔をする。

「総重量二万九千トン。
上空二キロから落下すれば、TNT爆弾140トン相当のエネルギーが市街のど真ん中で炸裂する」

───大地はえぐれ巨大なクレーターを残し、地表はカーペットのようにうねってあらゆる建物をなぎ倒す。
あとに残るのは完全な更地だ。

淡々とそう告げるフィッツジェラルドの口調に躊躇いは微塵も感じられない。

「そんな非道……絶対に許されない」

「秘訣その二。「他人の価値観に流されるな」……とはいえ君も俺も忙しい。端末を奪い合うなら簡潔(シンプル)に行こう」

フィッツジェラルドが椅子の上に端末を置く。

「…？」

「三つ数えたら同時に走り、先に端末を手にした方が勝者」

「！」

「君が勝てば白鯨を好きに動かせ、だが俺が勝てば君は俺に服従し捜し物を手伝ってもらう。
───1(ワン)」

「(どうする……勝負に乗って合図と同時に走るか？
……いや───組合の口約束なんて信用できない！)」

敦は前傾姿勢を取り、いつでも飛び出せる体勢になる。

「(裏をかいて合図より前に奪い───そのまま逃げる！)」

「2(ツー)」

敦が椅子の上の端末目がけ飛び出した刹那───蹴りが敦の腹にめり込んだ(・・・・・・・・・・・・)。