【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ42)

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266葉ページ42

《組合side》
「急いでよスタインベック。僕達まで巻き込まれたらコトだ」

「あぁ。横浜焼却作戦の第二段階───“白鯨落とし”。これが決まれば、詛いの異能で傷ついたこの街は……完全に破壊される。そのうえ落下地点には───」

《白鯨》
｛落下地点に、探偵社とマフィアの拠点も含まれる……！？｝

あーうん、やっぱりねえ……そうなるよねえ……

｛既に降下は開始している。一時間足らずで地上に激突する｝

｛この白鯨が貴方が異能なら、貴方なら落下を止められる筈です！！｝

｛確かにこの白鯨は儂の異能……じゃが今や、内部の七割を兵器置換されもはや儂に操作能力はない｝

『自らの異能を、自らで操れない……悲しいもんだね』

「えぇ、私もそうじゃないか」

ポツリと呟くと治が不満げに云うので思わず笑ってしまった。

｛聞きましたか二人とも！直ぐ作戦を中止して避難しないと……！｝

『はいはい、判ったから落ち着いて？』

「……敦君、よく聞くんだ。作戦に変更はない」

『白鯨の制御を奪取して落下を阻止すること───それは今、敦君にしか出来ない』

はっきりそう云いきった私に、敦がハッと息を呑む。

「Aさん……この事態が視えていたんですね？｝

『あくまで可能性としてね……当たったみたいだけど。それも含め貴方が適任者として判断した。……出来る？』

｛……っ｝

少しの間躊躇っていたのか、敦君は無言でいた。……そして。

｛……落下を止めるには……どうすればいいんです｝

｛制御端末を使うしかない。左に進んで吹き抜けの先じゃ。無論、警備は厳しいがな｝

｛……全員避難したのなら、何故貴方は残っているんです？｝

｛何故かな……かつて白鯨は空を泳ぐ異能生命体じゃった。それを組合が空中要塞に改造した。
その白鯨が異国の地に落ちて人々を皆殺しにするなら、せめて……儂も共に落ちようと思う。
───機械の体になる前の白鯨は美しかった。かつて組合がそうであったように｝

その少し後、私と治のインカムにコールが入る。

｛ご機嫌かね、太宰君、A｝

『失礼しまーす切りまーす』

｛待て、切らないで！｝

『何ですか、邪魔しないように協定結んだ筈ですけど』

｛その協定だが今部下から報告があってねぇ……｝

その言葉に私がため息をつく。云われずともその先が分かったからだ。

｛───守れそうもないのだよ｝

「芥川……！」

「人虎……！」

───遥か上空で、因縁の戦いが始まっていた。