【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ5)

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228葉ページ5

「外套に付いた血液が、文章に……！？」

そのまま腕ごと拘束。牧師の策略が一枚上手だったと云う訳だ。

「＿＿＿ッ」

「貴方は悪魔(ディアボロ)ですらない。弱者の肉を貪るだけの魂なき獣畜です。どうせこれまで、自分より弱い異能者としか戦ってこなかったのでしょう？」

「……」

その言葉に彼は何も反論せず、ただ眉間を強張らせる程度でいなした。偉い。すると追い打ちをかける様に芥川君を中心に旋風が吹き荒れる。その外套が、ピシピシと音を立てて崩れて行く。

「マフィアが、何よ……戦争が、何だってのよ……！」

「風化能力か……！」

戦闘不能だった筈の女性───ミッチェルが、血溜まりから身を起こす。それだけで精一杯なのだろうが、怯まずに彼女は叫ぶ。それが───彼の地雷を踏み抜くとも知らずに。

「アタシは一族の名誉を取り戻すの！
アンタみたいな敗北も屈辱も知らないような奴(・・・・・・・・・・・・・)に……負ける訳にはいかないのよ……！！」

……あっ、これぶちギレたな。
私が一瞬で察するほどピタッと静止した彼は、ボソッと呟いた。

「僕が……敗北を知らぬだと？」

拘束されたまま繰り出された〈羅生門〉。地面を潜行したそれが、背後からミッチェルを串刺しにして持ち上げた。

「何……！？」

「敗北も屈辱も僕と共にある。僕は闇を往く敗残兵」

「(詩句拘束すら退けるか……！)」

「故に、この程度の絶望に───僕は枯らせぬ！」

焦った表情の牧師へ向け、芥川君が突っ込み───急に失速した。吐き出されたのは、紛れもない血だ。

『あ……ッ！！』

芥川君、と叫びそうになったのを必死に噛み殺す。滲んだ血が襟衣を紅く染める。そこで、私は理解した。

『船上の戦いの傷が、治ってない状態で此処に……！』

「構わぬ……来い。全力で戦え。でなければ、僕が此処に来た意味がない！！」

あまりにも無茶だ。そんな言葉も噛み殺して呻いた私に追い打ちを掛けたのは牧師の問いだった。

「何故です？何故そうしてまで……」

「僕の希望は或る言葉。或る人からの……極詰らぬ一言だ。その一言の為、地を舐め泥を啜るかの如き敗北を幾度も抜けてきた！超えなければ───彼の人の信頼すらも(・・・・・・・・・)、僕は……！！」

そんなに、治を……彼を彼処まで追いつめているのが私達なのだと思うと、言葉に詰まった。そして───それを感じ取ったのは、私だけではなかった。