【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ39)

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「俺と太宰は視線だかの最低限のやり取りで意図を交わす───否、太宰が俺の意図を察してるだけか。
お前は何も無くても太宰の云おうとする事を察して動けてるだろ？それだけで十分だ」

『……うん、そうだね』

「さてと……そろそろ俺は本部に戻るぜ」

『あ、一寸待って』

九作君をおぶって窓枠に足をかけた彼を呼び止め、ポケットから取り出したとあるものを渡す。

「……何だこれ？」

『森さんに渡しといて。心配せずとも何も仕掛けてないよ』

怪訝そうな顔をしつつもそれをポケットに入れると、彼は今度こそ異能を発動した。

「……んじゃ、世話ンなったな」

『世話したのは与謝野先生だけど。また来ていいよー』

「絶対に遠慮するわ」

本気の表情の中也に思わず吹き出した。

「達者でな、A。太宰にくたばれって伝えといてくれ」

『はいはい。気をつけてね～』

中也はそのまま飛んでいくと、夜の闇に紛れて見えなくなった。

「むう……何いい雰囲気になってるのさ」

『嫉妬したの？』

「そりゃそうさ」

カーテン裏から現れると、私を抱きしめてサラリと肯定する治に顔が赤くなるのを感じた。

「うふふ、相変わらず可愛い反応してくれるねえ」

『うっせ……治がイケメン過ぎるのが悪い』

「そっかあ、私イケメンだものね！」

『えぇ……？』

「それで、何渡したの？」

『ハンカチ』

「嗚呼……」

意図を悟った治は何処かホッとした顔をしている。だが───一つ、私は仕掛けをしておいた。

《ポートマフィア首領室》
「……以上です」

「ふむ、お疲れ様。下がっていいよ」

一礼して下がろうとするが、ふと思い出してポケットに手を突っ込んだ。

「首領、Aから預かりものです」

「Aが？」

シンプルなデザインのハンカチだ。その中に何かが包まれていることに気が付き解けば、思わず笑みを浮かべた。

「……ふふっ」

「どういう意味ですか？」

「贈り物に意味を込める風習は知っているかね？」

「嗚呼、確か───ハンカチは『手切れ・別れ』、っつう意味があるとは聞いたことがありますけど」

「中にハンドクリームが入っていたよ。薔薇の香りのね」

「薔薇……？」

愛だ美だと、情熱的な花言葉なら知っているが、Aがそんな意味で贈る筈もない。ならばその意味は───

「薔薇の花言葉は色々あるのだよ。この場合は───」

桃色の薔薇が描かれたそれを抽斗に仕舞った。

桃色の薔薇───「感謝・暖かい心」