【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ34)

今日:10 hit、昨日:16 hit、合計:29,172 hit

258葉ページ34

『よっし、後は帰るだけ～』

……で、済むはずもなく。何かの音がして振り返れば、中也が触手に首を巻き取られていた。

「！？」

「さっきから妙に……肩が凝る……働きすぎか……？」

『違う絶対違う働きすぎじゃないそれは！！』

「ぬおあァッ！？」

『中也！』

中也が建物に叩きつけられ大きな穴を作る。あの程度じゃ死なないけどね……

「……チッ」

「むぅ、流石組合の異能者。驚異的な頑丈さだ」

「踏むな！」

容赦ねえ……いや知ってたけど。治を中也から退かしながらラヴクラフトを見据える。

「来るぞ、如何する？」

「ふっ……如何するも何も、私の異能無効化ならあんな攻撃、小指の先で撃t」

最後まで云わせず私は治の首根っこを掴み、思いっきり全力で引っ張った。直前まで彼の居た場所をめがけ触手が飛んでくる。

「ぐうえっ」

「な…っ！？」

方向転換してきた触手を中也が蹴り飛ばした。危なかった……。

「重い……拳…」

「ふふ…ふふふふっ」

「気持ち悪ィな、首ごと頭イカれたか？」

「あの触手……実に不思議だ。確かに触れた筈なのだけど……異能無効化が通じない。あのままじゃ吹き飛ばされていたね」

「莫迦な、有り得るのか？」

『治の無効化に例外はない。可能性は一つだけ───あれは異能じゃない(・・・・・・・・・)』

「はァ…！？」

「疲れた。眠い。腹が……減った。仕事を済ませて……早く……帰ろう」

「愉快な冗談だなァオイ。異能じゃねェならありゃ何だ？」

何なのかねえ？

｛解析に失敗しました。不明です｝

『……〈全てを識る者〉にも分かんないってさ』

「仕方ない、懐かしの遣り方でいこう。作戦暗号(コード)『恥と蟇蛙』は？」

「はァ？ここは『櫺子の外に雨』か『造花の嘘』だろうが」

「中也…私の作戦立案が間違ってた事は？」

『無いねえ。織田作曰く敵は銃も効かない奴だから全力でぶん殴っていいよ』

「……チッ、糞……！人遣いの荒い奴だぜ！」

こうなれば私は観戦するだけだ。
私が真価を発揮するのは単独行動の時と原作知識をフル活用する時だけなので、もはや私の出る幕ではない。
前に出た治をラヴクラフトが目に留める。

「(敵…排除して…帰る)」

割と行動は単調らしい。
治の背後から飛び出した中也が触手を伝ってラヴクラフトまで一気に接近し、そのまま拳で腹部を貫いた。

「───《重力操作》」

凄まじい音と共に、ラヴクラフトが地面へ縫い付けられた。