【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ30)

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254葉ページ30

「……何？」

「J・ナッシュにH・キッシンジャーは？」

「孰れも戦争戦略論の研究家ですね。
……昔誰かさんに教え込まれた」

「……孫子なら読むが」

「国家戦争と我々(マフィア)のような非合法組織の戦争には共通点があります」

『───先に裏切った方が利益を得る状況下では限定的停戦は成立しない』

「教えておいた事をまだ覚えていたのだねえ」

止めて！笑顔で火に燃料投下するのやめて！自業自得なのは分かってるけど隣の治さんが怖い！

「停戦の約束を突然マフィアが破ったら？探偵社が裏切ったら？損をするのは停戦協定を信じた方のみ。
あるとすれば完全な協調だが───」

「それも有り得ない」

「その通り。マフィアは面子と恩讐の組織。部下には探偵社に面目を潰された者も多いからねえ」

「私の部下も何度も殺されかけているが？」

「だが死んでいない。マフィアとして恥ずべき限りだ」

その言葉を聞いた社長の逡巡の後、カシャ、と鍔鳴りが静かな空間に響いた。

「……ふむ。ではこうするのは如何だ？
───今、此処で凡ての過去を精算する」

強烈な殺気が社長から放たれ、その圧力に銀ちゃんと立原君が得物を手に動き出す。
……が、二人が持つ拳銃と短刀は瞬き程の一瞬で斬られ無効化されていた。
───眼にも留まらぬ神速の動き。風が吹き荒れ、気づいた時には、二人は刀とメスを突きつけ合った状態で静止していた。

「……刀は棄てた筈では？
孤剣士≪銀狼≫───福沢殿」

「手術刃(メス)で人を殺す不敬は相変わらずか。森医師(せんせい)」

「相変わらずの幼女趣味か？」

「相変わらず猫と喋っているので？」

沈黙の後、社長が揺らめいて幻影となり消える。本当の社長は背後で既に抜き身の刀を鞘に納めていた。森さんは瞠目の後背後の谷崎君に気がついた様だ。

「……立体映像の異能か。楽しい会議でした。続きは孰れ戦場で」

「今夜、探偵社はQの奪還に動く」

「それが？」

「今夜だけは絶対に邪魔をするな。互いの為に」

「……何故？」

「それが我々唯一の共通点だからだ───『この街を愛している』。
街に生き、街を守る組織として、異国の異能者に街を焼かせる訳にはいかぬ」

「組合は強い。探偵社には勝てません。ではまた三人とも。勧誘話はまだ生きているからね」