【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ21)

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245葉ページ21

「……。」

「おや、珍しいの童。そなた一人かえ」

探偵社に戻った敦に声をかけたのは紅葉だ。

「ゆるりと寛いでゆけ。見ての通り幽閉中の身ゆえ茶菓子も出せんがの」

「幽閉？……鍵も無い部屋で？」

「鍵ならここじゃ。あの二人の掛ける鍵は目に見えんでのう。それに、Aの追跡からは逃れられぬ」

───紅葉姐さんは当面は無害だよ
太宰がそう云っていたのを思い出した。

「で、何用じゃ童。私を消しに来たか？
あるいは不手際を為出かして前線から逃げて来たかのう？」

「……っ」

何じゃ、図星か」

「違う、僕は…僕はただ皆を守ろうと…」

「ふん……太宰といいAといい、面倒な教え子ばかり受持つのう。
忘れろ忘れろ。貴様如き豎子の所業、端から誰も期待しておらぬわ。それより善いのか？二人の傍に居らんでも。戦争中じゃろう？」

「……二人は交渉に向かった。政府の代理人(エージェント)と」

《駐車場》
『おー、安吾。態々悪いね』

「いきなりどうしたんですか。というより何故今なんですか？」

「至急相談したいことがあったんだ。…ドライブしない？」

にっこり笑って言う治に面倒事の気配を察知したのか厭そうな顔をした。
三人で車に乗り、安吾が運転しつつ(治が名乗り出たが止められた)ざっくりと説明をする。

「成る程、北米異能組織『組合(ギルド)』の暗躍ですか」

『そう。そのせいで今探偵社大変な事になってるのよねー。治、狭い』

おー、と背もたれを倒す治のシートを押し返した。

「……組合の行動は我々も把握しています」

「知ってて……放置してたって事かな？」

「太宰君と違って僕は勤労の徒ですから」

「酷いなあ。安吾が基準じゃ全国ブラック労働まみれになるよ」

『治は働かなすぎだからね？』

「……そもそもお二人は、組合が如何なる組織か存知ですか？
組合とは一種の“秘密結社”です。構成員は各が表の顔を持ち、政府・大企業の要職にある者も名を連ねています。その影響力は北米は疎か本邦中枢にまで強力に食い込んでいる」

何か……二年前に似たような話があった気がするなあ(遠い目)

「政治(・・)ですよ。連中は外交筋から圧力を掛け構成員に外交官同等の権限を賦与させました。もはや法の外の存在。法執行機関は組合を拘留すら出来ません。
我々特務課も他庁との権力均衡(パワーバランス)の中で身動きが取れません。この会合も恐らく連中の監視下です」