【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ17)

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241葉ページ17

《建物裏》
「……此処なら人目も無い。出てきたら？」

「！」

治を尾けていた銀ちゃんが首元に向けようとする刃を後ろから掴んだ。
ピリッとした痛みが走った。多分切れたな。

「君ねえ……」

『置いてける訳無いでしょ？』

「監視はお見通しという訳ですか」

「生憎、マフィアの監視術を創始したのは私だからね」

『で、ご用件は？樋口さん』

「この銃が用件とは思いませんか？」

向けられた銃口にも動じず、治は少し微笑んでみせた。

「思わないね。暗殺部隊にしては人選は半端だ。
第一、彼女はともかく私の暗殺なら希望者殺到で軍隊が出来るよ」

『銀ちゃんもこれ下げてちょうだいな。一寸痛い』

「……。」

あちゃあ、一寸切れちゃったか……
血の滲んだ指を口に含んでそうぼやいた。

「君は本当に、そういう事を外でするから……」

『え？』

「……確かに用件は別です。首領より伝言を言付かっています」

『森さんから？』

「脅迫か恨み言か殺人予告か……心当たりが多すぎて困るね」

『それ治が森さんにでしょ』

黙って肩を竦めた治にまた一つ溜息。

「……伝言はこうです。
『太宰君、A。正式にマフィアへ戻る気は無いかね？』」

『あー、そう来たかー。それ以外は？』

「何も云われていません。これだけです」

「……ぷっ」

「(なっ……笑われた！？)」

治はおかしくて堪らないといった風に笑っているが、殺気をカモフラージュしきれていない。
樋口さんは気づいていない様だが、気づいている銀ちゃんは仕方がないといった表情だ。

「いや、実に目出度いお誘いだ。嬉しくて仕様がないよ」

「貴方達の記録を見ました」

『…それで？』

「その手腕。敵の心臓を刳り貫くような暴虐……貴方達の血はマフィアの黒です。この国の誰よりも」

『そんなやらかしてたっけ？』

「真逆。暴虐なんてただの手続きだよ。退屈なものさ。それに人は変わるものだ。
現に底の銀ちゃんだって、昔はこんなに小さくて可憐な少女だったのだよ？」

『懐かしいねえ……兄さんと離れたくない、ってピッタリくっついてたっけ？』

「話を……掏り替えないで下さい」

「(女！？しかも声が可愛い……)」