【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ13)

今日:17 hit、昨日:16 hit、合計:29,179 hit

236葉ページ13

スタインベックが繰り出した木の根を撃ち無力化を図る国木田だが、無数に繰り出される枝に拳銃を叩き落とされた上腕に樹木が絡みつき身動きが取れなくなる。

「……ッ」

「君こう思ったね？「お嬢さん方が逃げ切るまで僕に樹木に触れさせなければ勝ち」だって」

「くっ」

「戦況を簡略化し過ぎると行動が単純になる。動きを読むのは訳ないよ」

「……成る程、後で手帳に書き控えよう。処で貴様は先刻こう思わなかったか？
「事務員を救助しに来たのは俺たち二人だけ(・・・・・・)だ」と」

銃声。
誰一人として銃器を持たない筈のこの状況でそのような事が可能な筈が無い。
───誰かが隠れていなければ(・・・・・・・・・・・)。
木の根が破壊される。
スタインベックが動揺したその一瞬の隙を見逃さずに国木田が懐まで距離を詰め、腕を掴むや否や投げ飛ばした。

「がっ！」

国木田が首から生える葡萄の木を抜いた。スタインベックは苦悶の声を上げる。

「ぐ、あァッ」

「戦略を簡略化し過ぎると行動が単純になるぞ。後で控書(メモ)しておけ」

「今のは、狙撃……？お前たち以外は居なかった筈、一体何が……！」

ゆらりと空間が歪む。緑を帯びた雪と共に現れたのは銃を構えた織田だった。

「一時はどうなるかと思ったが……上手く行ったか」

「嗚呼……超大国の秘密異能組織が異国で誘拐業とはな」

「……耳が痛いね。でも団長が言っていたよ。『組合は良いことをする組織ではない』。『すべきことをする組織だ』ってね」

何かに気がついた国木田が弾かれるように振り返る。首からゆらりと身を起こすのはラヴクラフトだ。

「何！？」

咄嗟に国木田が胸や腹部といった急所を撃ち抜いていくが、ラヴクラフトはそれを気にも留めずすたすたと歩いてくる。

「遅いよラヴクラフト！何してたの！？」

「寝てた」

「谷崎、〈細雪〉で姿を───」

「待て、避けろ谷崎！」

〈天衣無縫〉───未来予知が発動した織田作が警告を発する瞬間には、谷崎は既に触手に体を吹き飛ばされていた。
続けて国木田が餌食となり織田作は回避を続けながら救出を試みるが、その質量相手では限界がある。遂に食らった、それもたった一撃で崖下まで叩きつけられる。
鉄臭いものが喉からせり上がった。

「く……っ」

「うわあ、今のは痛い。さて……これで形勢逆転だ」