【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ12)

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235葉ページ12

「……「頼み」？悪党にとっての「頼む」は「利用して奪い使い捨てる」の類義ですわ」

「「悪」？参ったな。どうも誤解があるみたいだ。組合は悪の組織じゃないよ。もちろん僕も。
故郷に君くらいの歳の妹がいるんだ。大家族でね。夕食は戦争さ。妹はパイが好物でいつも僕の分まで食べる。でも可愛くてつい許しちゃうんだな」

「……なら、私達を逃がして(・・・・・・・)」

返答は、再びその圧迫を強めた木の音が立てた車体の軋む音だった。

「「きゃああああっ！！」」

「勘違いさせたのなら済まないね。組合の任務は過酷だが払いが良いんだ。解任されたら故郷の家族が飢える。分かるかい？妹の為なら君がどうなろうと知った事じゃない」

「もう止めてぇっ！」

「(マフィアは時間を計算していた……なら必ず探偵社の救助が間に合うよう調節した筈！
お願い……間に合って！兄様……！)」

そんなナオミの願いが届いたのか───降り出したのは、僅かに緑を帯びた雪だった。

「奇妙な国……この季節に、雪が」

ラヴクラフトの背後から国木田が現れる。肩を撃たれ仰け反るラヴクラフトにスタインベックが驚いた顔をした。

「何！？」

続けざまに国木田が放った自らに向いた銃弾を木の根で防ぐ。その間に車の元までよじ登ったのは谷崎だ。

「ナオミ！逃げるンだ！」

「兄様！」

車に絡みつく木の根をナイフで切り落とすと、素早く叫ぶ。

「五分後、麓の鉄道を旅客列車が通る！十秒だけ止まる様に話を通してある、それに飛び乗れ！」

逃げて行った事務員二人に、スタインベックはただ苦笑いを零した。

「…こうなる気はしてた。“信頼できない情報源(アンリライアブル・ソース)”からのタレコミだからね」

「(先刻見せた奴の異能…一度樹木と繋がれば麓の樹木を操って列車を停止できるだろう。
事務員が逃げおおせる迄の五分、奴に一度も樹木に触れさせてはならん(・・・・・・・・・・・・・・・・・))」