【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ11)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:29,158 hit

234葉ページ11

《事務員side》
扉を開け裏口から(・・・・)飛び出したナオミと春野は走る。

「如何して駐車場に行かなかったの？」

「前に太宰さんが云ってましたの。『相手と情報量が等しい時は裏をかいた方が勝つ。相手に情報量で劣る時は何を為ても勝てない』って」

「それで裏をかいて従業員通用口から？」

「業者用の駐車空間です。此処の車で逃げましょう」

「でも…鍵は？」

ナオミが取り出したのは春野の持っていたものとは別の鍵。カチッと釦を押すと、車の内の一台の鍵が解錠された。

「旅館に着いた時に仲居さんから掏っちゃった」

「貴女に異能があったならお兄さんより優秀な探偵員になれるわ」

「勿論」

勢いよく車が発進する。───それすらも、知られているとは知らずに。

「……そこか」

《山道》
「でも何故こんなに早く組合が？」

「マフィアですわ。私達の対応が早すぎれば組合は罠を警戒します。遅すぎれば組合を利するだけ。マフィアは絶妙の機(タイミング)で情報を左右に振って敵を咬み合わせた」

「強敵ね」

そう話していれば、突然走った衝撃と共に車が持ち上げられた。

「「！？」」

「何！？」

「何かが車体に……！ドアが開きません！」

窓の外から見えたのは、ギッチリと車に巻き付く木の根。ミシミシと音を立て、車体ごと押し潰される───

「此の儘じゃ押し潰されますわ！」

───その直前、木の根は動きをピタリと止めた。

「…止まった？」

「申し訳ないね、お嬢さん方。真逆裏をかかれるとは。さすが探偵社は隅々まで人員が行き届いてるね」

警戒するナオミや怯えている春野をよそにスタインベックは話を続けていく。

「君達は葡萄の育て方を知ってる？葡萄の枝は他の植物と活着する力が強い。だから接ぎ木して育てるのさ。…こんな風に」

「！」

「僕の“葡萄の樹と身体を融合させる”能力は力も範囲も小さい。
けどこうして他の植物と融合していけば、土地一帯の植物を自分の身体の延長として使える。
地中の根で振動を検知して逃げる誰かさんを見つけるのも簡単、って訳。
そう怖い顔しないでよ！少し頼みがあるだけさ」