【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ44)

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92葉ページ44

「六蔵少年は早くに母親を亡くし、父親と二人暮らし警官である父を尊敬していたそうだ。あの時、市警へ潜窟発見の報を入れたのが、俺だ。───俺が殺したようなものだ」

「『違うよ』」

声が揃い、一瞬静寂が訪れる。再び口を開いたのは治だ。

「どう考えたって市警の上層部、更に云えば自爆した犯人が悪い」

『国木田君はするべきことをしただけ。例えた話、国木田君は駒。盤上遊戯(チェス)で負けたのは駒の所為？違うでしょう』

「……それは」

『駒に罪はない。駒に罪を擦り付け、自分には罪が無いかのように見せかける人間の下に付くべきじゃないと私は思うよ。……御免、話逸れたね』

「……そうかもしれん。だが少年の意見は違うだろう。でなければ、探偵社に復讐紛いの電網破りを仕掛けたりせん。
……六蔵少年の父親はもう居ない。それだけが事実だ。誰かが父親の代わりに奴を見守り、時には
拳骨を落としてやらねばならん。俺には偶々それが出来る。ならば好都合だ」

「国木田君はロマンチストだねえ」

治が溜息混じりの苦笑を零す。まあそこが国木田君らしいとこなんだけどね。
目の前にタクシーが止まり、運転手がブンブンと手を此方に振った。

《車内》
「いやーお久しぶりですね国木田調査員。本日はお日柄も良く絶好の探偵日和でございますね。今日もメガネ似合ってますね、僕も運転手の仕事続けてますとね、お客様の眼鏡の……むぐっ」

『国木田さーん、何で態々このタクシーにしたの？』

運転手の口を結界で物理的に塞いで問いかける。怒られるかなーと思ったんだけど……

「よくやった。───先程話した『横浜来訪者連続失踪事件』を覚えているか」

『六蔵君が調べてる奴だっけ？』

「嗚呼。被害者は十一人。そのうち二人を失踪直前に目撃したのがこの運転手だ」

私は車内を見渡しながらすんっと鼻を鳴らす。……否意味あるからね？治さんそんな目で見ないでくれないかな！？

「目撃っていっても、港からホテルまで乗せただけですけどね。お一方は旅行の女性、もう一方は業務出張の男性でしたね」

「この人物で間違いないか」

「ええ、この方達で間違いありませんよ。服装も写真の通りでした。僕がこのホテルまでお乗せしたんです」

「オーケイ、それで国木田君、何時になったら私達はその失踪事件とやらの内容を教えて貰えるのかな？」

「……善いだろう」