【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ39)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:57,969 hit

87葉ページ39

「もう一つの、異能……！？」

もう無茶苦茶だ。
異能は一人につき一つ顕現する───それが今まで絶対の定則であり、二つの異能を持つ異能者は最高峰の異能者が集まる欧州でさえも未だ達していない域と云われている筈なのだ。それを彼女は……

「一言も聞いていません。まあ、聞けば答えるのでしょうが……」

「嗚呼。特に隠したいといった素振りも見せていないそうだ。
〈全てを識る者〉───ナビゲート機能に戦闘における身体制御、行動予測から助言……特務課を以てして未だ全て把握出来ていないそうだ」

「確かに、それを〈ネクロファンタジア〉と組み合わせれば最悪の事態をも引き起こせます」

呻くようにそこまで云ってから、国木田は漸く福沢の云わんとする事を理解した。

「…つまり、こういう事ですか？
大人物たる種田先生の酒の席で、偶々そのような奇才なる異能者が隣に座り、偶々意気投合した。
言動は珍妙ながら筆記試験で満点を取るような奴と、異能を二つ持つ奴という秀才二人。
そして、何故か銃の扱いに長けた織田が偶々無職で、外の伝手ではとても入社できない武装探偵社に話の流れがとんとん拍子で進んで首尾よく入社した。
───出来すぎている、と？」

「考えすぎやもしれぬ。しかし、武装探偵社には省庁、軍警の人脈も多い。職業柄、国家機機密に準ずる情報を扱うことも多分に在る」

新入社員達は間諜なのではないか───
福沢は、言外にそんな疑いを含ませていた。

「……思い当たる節は、あります」

「月影か」

「はい。三人の中でも最も常識人で、勤務に対する意欲も実力もあり探偵社員として充分な実力もあります。それ故に───何処か危うい」

「気付いていたか……」

確かに、初めて社長室で会った時から何処か違和感を抱いていたのだ。初めこそ気の所為としか思っていなかったが───先程の太宰が多幸茸で錯乱した件でハッキリと自覚した。

「月影は少し巫山戯ている節はありますが、誠実で真っ直ぐな性格です。ですが……何処かが歪んでいるように思います。絶対に触れては、ならない様な───……」

「それも配慮する必要があるか……国木田。お前にあの者達の入社試験を頼みたい」