【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ31)

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79葉ページ31

《武装探偵社前》
『はぇー、此処が武装探偵社……』

「行きましょう」

昇降機に乗り込んで上まで上がり、扉を開ける。

「お待ちしていました。事務員の春野です」

『は、初めまして』

待っていたらしい春野さんに連れられて社の中を歩く。休日だからか、他の社員の姿は見当たらなかった。

「社長、新入社員の方が来られました」

「……入れ」

「どうぞ」

春野さんは入らないみたいだ。緊張でガチガチなのが見え見えな気もするけど仕方ない。うん、仕方ない。

『えと～……初めまして。今日？からお世話になります月影Aです』

「太宰。太宰治です」

「織田作之助です」

「……織田？」

社長がぴくりと反応する。そういえば、設立秘話で絡んでたなあの二人……織田作も心当たりがあるらしい。

「……真逆、銀狼殿か？」

「え、織田作知り合いなの？」

「昔仕事で会った事がある」

「……ふーん」

「社長の福沢だ。明日からここで働いてもらうが……詳しい事は明日、社員の国木田に聞け」

国木田君……胃薬用意しといてね……

「判りました」

「春野、社員寮を案内してやれ」

「はい。こちらに」

軽く頭を下げて退出する。流石の存在感だった……

『……ふぅ』

「流石に緊張しましたか？」

『取り敢えず怖い』

「あはは、真逆Aの口からそんな言葉出てくると思わなかったよ」

『威圧感凄いんだもん』

「大丈夫ですよ、直ぐ怒ったりしませんし優しい方ですから」

それは知ってるんだけど……実際相対すると、ねえ……？

「着きました。此処が社の寮です」

『おぉー』

見上げれば想像していたものと寸分違わぬ古びた寮が目の前に立っていた。

「あら？鍵が二つしか……」

『あ、それで大丈夫です。私と彼で一室なので』

「あら、そうでしたか。詳しい書類等は部屋の中にあるそうです」

「ありがとう」

「それでは、明日からよろしくお願いしますね」

鍵を二つ受け取ると春野さんは社へ戻っていった。

『じゃあ私達こっちでいい？』

「嗚呼、構わない」

織田作と其処で別れ、暫くお世話になる寮に入る。別に寮じゃなくても良かったんだけど、仮にもお尋ね者っていう関係上寮の方が何かと都合がいいのだ。
まぁ普通に資金洗浄されちゃってお金がないっていうのもあるんだけどね……。

「生活に困るって事は無さそうだね」

『一通りのものは揃ってるしね……あ、これがさっき云ってた紙か』