抱きしめてあげる。３ (ページ6)

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ショートケーキ：another story：N2 ページ6

気づいたら、差し出されたAの腕を掴んでいた。

Aにつけられたあの赤いしるしが、目に焼き付いていて。

もうAが遠くにいってしまう気がして。

反射的に掴んだ腕を、握りしめてしまう。

まだ俺、なにも進めてないのに。

頭のなかでぐるぐると考えていると、Aに声をかけられて我に返った。

早く腕を離さなくちゃ。

そう思うのに、やっとのことで絞り出された程度の速さでしか離すことができなくて。

その手が離れてからは、手応えのない空気を握りしめて、ただ虚しくなるだけだった。

急に大人しくなった俺を心配してか、Aが何度も何度も声をかけてくれる。

持ってきてくれたグラスには水がなみなみと注がれていた。

少しずつ口に含んで流し込むのに、あの赤いしるしは流れ去るどころかいつまでもつかえていて脳裏に焼き付いてしまったみたいだ。

「…体調悪くはないんだよね？」

うん、体調は絶好調だよ。

悲しいくらいに元気だよ。

「それならいいけど…。」

ー…。

よくないよ。

全然よくない。

そんなの易々と受け入れてるAも。

中途半端にそうやって見せつけてくるわったーも。

なにもできない、

それを見て勝手にいらついている、俺も。

ぎゅっと目を瞑って俯いていると、ふわっと何かが髪に触れた。

…え？

「タカ、なにか困ったことあるんなら、わたしでよかったら相談にのるからね？」

俺の髪にはAの手が伸ばされていた。

それは羽のようにそっと触れているだけなのに、確かな存在感と温かさがあった。

こうやってまた、キミはすっと俺の懐に入ってきてふんわりと俺のことを包んでいくんだな。

わかった、とぼそっと返すと、Aはふふっと笑ってこどもをあやすように撫でてきた。

「俺はこどもじゃねえよ。」

「はいはい、もう18の大人ですもんね～！」

からかう言葉が途切れると同時に髪に触れていた手が離れる気配がして、思わずそこに自分の手を重ねた。

離れていきそうなキミに、今俺が精一杯できることがこれだなんて。

「…もう少しだけでいいから、そのままで…」

こどものような言い方でしか、

こどものようなやり方でしか、

Aのことを留めておけないなんて。