( おせっかい ) ページ30
鍵谷 side
「………もしもし、」
(はい、Aです。)
「鍵谷です。」
(あ、鍵谷さん！いかがお過ごしですか？)
「……俺は元気だよ、」
(ふふ、よかったです)
「Aちゃんは？元気にしてる？」
(はい！大丈夫です！
……卓は、げんきですか、
ご飯食べてますか、ちゃんと寝てますか、
ちゃんと、笑ってますか、)
Aちゃんの、柔らかくて甘くて、かすれた声が
胸をきりきり、させた。苦しかった。
「……卓は元気だよ。
今日も野球に向き合ってる。」
(……ほんと？)
「……うん、」
(すみません、ありがとうございます。)
「…うん」
(……………)
「……………」
(……おねがい、します、卓のこと、)
少しの沈黙の後、消えそうな声でそう呟いた。
ああ、Aちゃんも苦しんでる。
社会人一年目の壁に、突き当たってる。
(…頼めるの、鍵谷さんだけだから、
卓のこと、おねがいします。)
「……、ぁ」
ただ、それだけ言って切れた電話。
嘘は言ってない。
俺は何も知らない。
何かあったのかもしれない、という中途半端な憶測はあっても、
卓に何があったのか、何に苦しんでいるのか、分からない。
Aちゃんに何も言わなかったことが、正しいのかすら分からない。
Aちゃんはおそらく、勘付いている。
ここ最近、卓の様子がおかしいこと、
離れていても顔を見なくても、声を聞かなくても、
分かっているんだと思う。
ただ、ひとつ、確かなことは
Aちゃんは、卓のことを疑ってすらいない、ということだけ。
you ( あれ、鍵谷さんなんで電話かけてきたんだろう、
一方的に切っちゃったけど、大丈夫かな、
なんか、用事があったんじゃ………)
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作者名：璃央 | 作成日時：2017年8月13日 16時
