華の牙【朔間零】

アクトレスの追憶 (3) ページ40

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またもや自室に籠るようになったA。

不登校を心配するのは、いつしかユウだけとなる。中学入学当初から登校していないから、存在すら知らない人が多い上、小学校の学友はみんな敵ばかり。

何より、両親すらもう心配などしていなかった。



「本当に出来損ないの娘だ。才能はあるのに、あれじゃあな……」

「婿を取って継がせるつもりだったけど、あの子には無理よ。その役目、妹に任せましょう」



Aが中学2年生に上がる頃、会社の、MIZUKIグループの跡取りは正式にAからAの妹へと変わった。

誰も期待しない、希望を抱かない、世辞すら口にしなくなった彼女の世界は更に孤独を極める。



「A、明後日のパーティに参加してくれないか」

「………え？」



ある日、父はAにそう言った。

籠りきりの娘を外に出そうとした訳では無い。今更令嬢としての義理を求めている訳でもない。



「長女が引きこもりの不登校だというのが露見すれば、我々は立場がない。父を救うつもりで1度出てくれ」

「…………はい」



父の言葉は、一見優しいように聞こえた。しかし、Aは絶望する。

そこに優しさなど欠けらも無い。家族として見放されていた。まだ命じられ、無理やり出させるのであればそこには愛がある。だが、父はAに対してお願いをした。その態度こそが、彼女をさらなる自己嫌悪に至らしめる。


そうして中学2年生のAは、中学に入ってから2度目の社交パーティへ参加することとなる。

今度は、誰かと喋らなければ。ダメな私でも、とにかく父をがっかりさせないように。父は正義で、父に見放されたら終わりだ。

Aの頭脳は、それだけで支配されていた。

そんな中、彼女の耳に一際大きく響く。







「天祥院の御曹司殿。随分とご無沙汰してしまい、申し訳ない。お身体の方は如何ですか？」

「いいえ、お気になさらず。結城様もお元気そうで何よりです。僕も、最近は体調が回復傾向にあるんですよ」







一瞬にして、記憶の中から彼＿＿＿＿天祥院英智の存在が呼び起こされた。

彼は去年パーティで、彼女が「天使みたい」と口にしてしまった少年だ。人間離れした美しい容姿と、中学生とは思えない堂々とした態度で大人ですら頭を下げるような存在だ。



(去年のこと………謝らなきゃ………)



父に迷惑をかけないため。思考が働かない中、Aはふらふらとした足取りで彼に近づいていく。



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