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仕事_126 ページ30

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一期は襲いかかってきた化け物を一文字に切り裂いた。その裂部から、どろりとしたものが溢れ出て飛び散る。



Aはこみ上げてきたものを必死で飲み下し、ばっと両手を突き出した。



同時に、それまでずっと夢として見えていたあの光景が、確かな輪郭(りんかく)を保ち始めた。





『(どうして今なんだ…)』





Aは、目を細めた。



白い、雪が降っている。一期だけがその中にいて。

彼の手にする太刀に、赤い何かがついている。

紅い。あれは、血だ。

それを(ぬぐ)うこともせず、謝っている。悲痛な声で。

何度も、何度も___





刀で攻撃されながら、化け物はしかし堪えた様子もなくじりじりと間合いを計っている。



Aを背後にかばいながら、一期はどう攻撃すれば効果があるのかを思案していた。



あのどろりとした表皮には、斬撃は効かない。



彼は太刀を逆手に持ち、弓手(ゆんで)を柄に添えて構えた。



切っ先を真っ直ぐ据えた一期に、重く唸りをあげながら化け物は、長大なその身を跳ね上げて襲いかかってきた。



一期は自分ごと化け物に突っ込む。しかし、相手はその巨体からは考えられない身のこなしでそれを避けると、全身を覆う漆黒の触手をのばしてきた。



どろりとしたそれが一期の四肢に絡みつく。触れられているところから急激に体温が奪われていった。神気が浸食されて、一気に力が削がれる。





一期「な…っ」





慄然(りつぜん)とした。



この化け物にとって、生あるものは全て餌なのだ。



黄泉は死者の国。死者は生者の持つ命の輝きや生命力を、渇望(かつぼう)する。



更に、無数の触手は一期をすり抜けて、Aをも捕らえた。





一「A殿!」





一期の叫びが、Aを現実に引き戻した。



うなじの辺りに冷たいものが生じた。触手に捕らわれた箇所から、言葉にできないものが抜け落ちていく。





『うわっ……!』





がんがんと、すさまじい頭痛が起こった。ひどい目眩に襲われ、貧血を起こしたように気が遠くなる。





一期「…っ…のれ…!」





一期はまとわりつくそれを力任せに蹴散らし、Aに手をのばす。



しかしその手が届く前に、いっせいに向かってきた触手が一期を覆い尽くした。意識が僅かに混濁する。



化け物はその一瞬の隙をつき、Aの体を引き寄せると、





一「_____!!」





一息に呑み込んだ。


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作者名:葛の葉 | 作成日時:2018年12月16日 16時

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