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仕事_123 ページ27

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ひゅうひゅうと喉を鳴らしながら呼吸するひのとに、一期が太刀を構える。





ひのと「……っ」





死にたくない。



だって、死んでしまったら謝れない。償うこともできない。



___人の道を(たが)えたまま死にたくない。




ひのとは、やっとの思いで吐き出した。





ひのと「……待ってくれ…一期…!」





ひのとを見下ろしていた一期は、一度瞑目(めいもく)した。





一期「……」





そして再び開く。



それまで水面(みなも)のように静かだった黄金(きん)の瞳が、苛烈(かれつ)に輝いた。



彼は太刀を(かか)げる。





一期「____頼みを聞く、道理はない」





ひくりと息を呑み、拳を握り締めた。





ひのと「……俺は……っ……!」





やっとの思いで顔を上げたひのとの視界は、風を切る音と共に現れた人影に埋め尽くされた。





「「_____?!」」





ひのとは息を詰めた。



振り下ろされる太刀。それを手にした一期が愕然(がくぜん)と目を見開いている。



刀の重量と、そこに勢いがつけば、彼の腕力がどれほどのものであっても、力を殺すことは難しいに違いない。



が、一期は太刀を全力で止めた。





ひのと「………っ…!」





ぱきんと、音がした。



何かが降ってくる。



とさりと落ちたそれは、真っ二つになった、牡丹(ぼたん)の形をした髪飾りだった。



結われていた髪が支えを失って落ちる。



現れた人物が誰なのかを認めて、ひのとは茫然と呟いた。





ひのと「………A…?」





ひのとに背を向け、両膝をついて諸手を広げている。



まるで、ひのとをその身をもって守るかのように。



太刀は、Aの髪飾りを割りながら、それでも髪一筋の隙間を残して止まっていた。



Aは身じろぎ一つせず、一期をまっすぐに見つめている。



一方の彼は、血の気の引いた顔が青を通り越して白くなっていた。





一期「どう、して……」





振り上げた刀の前に出るなど、正気の沙汰(さた)ではない。





『…言っただろう?仇を討ちたいと思うのなら、私を殺してから討て、と』





一期はこれ以上ないほど目を見張る。



そして悲痛に顔を歪めた。





ひのと「………──────」





霊力も気力も限界だったひのとは、そこで力尽きたように倒れた。



次いで一期も力なく、その場に膝をついてうなだれた。


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作者名:葛の葉 | 作成日時:2018年12月16日 16時

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