仕事_28 ページ11
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『_____、___………来週か』
Aは一度部屋に戻り、同僚から見習いについて必要最低限の情報を聞き出した。
だが見習いの名前だけは教えてくれなかった。否、同僚も真名は知らないらしい。
「A様、は、入ってもいいですか?」
『五虎退か、構わない』
すぅと襖が開き、虎たちが喜び勇んでAに擦り寄る。
五虎退「と、虎くん!……すみません…」
『良いよ。五虎退も、ここへ』
パッと顔を明るくして五虎退も彼女の傍に寄る。
『正座、崩して良いのだぞ』
五「い、いえ、僕はこれで慣れているので…」
“慣れている”
それを聞いてAは目を瞠(みは)った。
彼は確かに一度折れたが、その魂は変わらずに顕現されたのだ。自分の手によって。
よくよく考えれば、それはとても自分勝手な考えで、五虎退の意志を全く無視した行いだった。
『……五虎退は、ここに戻ってきたいと、思っていたか…?』
予想だにしなかった言葉に、五虎退は目を見開く。
『本来なら、お前は全く新しい姿で、新しい生涯を送るはずだったのだ』
五「A様……?」
『そのさだめを、私は歪めてしまった……自分が幸せでいるために、お前を犠牲にしてしまった』
自分を、恨んでいるだろうか。
目頭が熱くなるのを自覚して、Aは必死で歯を食いしばった。
ここで泣いてはいけない。それはただの逃げだ。
Aの固く握りしめた手を、五虎退が両手で優しく包む。
五「A様、僕が戻ってきたのは、決してA様が僕のさだめを歪めたからではないんです」
『…それは…どういう……』
五「僕は、自分の意思でここに戻ってきたんです」
Aは彼の瞳を見つめた。
優しい淡黄色の目が、真実だと語っている。
五「僕はここにまた戻ってこられて、本当に良かったと思っています。ですから、そんなお顔をなさらないで」
あやすように手を撫で、五虎退は静かに笑んだ。
それに安心してAはそっと息を吐き出す。
少し、心が軽くなった気がした。
五「落ち着いたら、一緒に広間に戻りましょう」
『そういえば夕餉がまだだったな』
五「僕たちが昼間に採った野菜を料理してくれると、燭台切さんが」
『!それは楽しみだ』
だがこの後Aは、ほぼ全ての料理に入っていたピーマンと死闘を繰り広げるのであった←
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作者名:葛の葉 | 作成日時:2018年5月17日 0時