記憶125 ページ34
「ここよ」
案内されたのは尾浜、久々知と二枚の木製の掛札が縦に並んでかけられている部屋だった。
久々知さんと尾浜さんは同室だったのか。
知っていれば先程帰り際に返却を頼めたのに。
「ありがとうございます。助かりました」
山本さんにお礼をして、中に声をかける。
いるかどうか不安だったが、「はーい」と返事が聞こえた。
開いた障子からは久々知さんが出てきた。
驚いた顔をする彼に、とりあえずこんにちはと挨拶をする。
「こんにちは。……えっと、どうかしたんですか?」
「これを返しに来たんです。何日間も放置してすみませんでした」
そっと両手でくないを差し出すと、久々知さんはサーッと顔を青くした。
そしてすごい勢いで私の顔とくないを交互に見る。
二回往復したところでホッと息をついて話し出した。
「何も残らなくて良かったです。もし傷物にしてたらどうしようかと」
「そしたら久々知くんが責任取れば済む話じゃない」
ね? と私に同意を求めてくる山本さん。
その発言に久々知さんは物凄い動揺を見せる。
どういうことかと思ったが、傷物だの責任を取るだの言っているところから私を娶るとかそういう話をしているということに気が付いた。
たしかこの時代は戸籍のようなものが明確に残っていた記録はなかった。
しかし、税収制度などの関係から何らかの形で人民管理は行われていたとされていたはず。
(戸籍のない私と夫婦になるなど可能なのか……)
真剣に考えた末にたどり着いた答え。
「厳しいものがありますね」
現代的に考えれば無理だし、この時代的に考えても色々と不明なことばかりの私を娶る物好きなどいないだろう。
久々知さんにそんな厄介事を押し付ける訳にもいかない。
「……あれ、どうかしたんですか?」
正面で落ち込んだような表情をする久々知さん、真横でくつくつと笑いを抑えきれていない山本さん。
私の言葉は両者に対して向けたものだ。
「なんか振られた気分……」
「ふふっ、そのうちいい子が見つかるわよっ。……ふふっ」
「えっ? ……あっ、違いますよ!?」
事を理解した私は弁明する。
厳しいものがあるという私の返答を、二人は別の意味として取ったようだ。
制度的な関係でそう言ったのだと、私は一から説明した。
258人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「忍たま」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年1月13日 19時