記憶124 ページ33
部屋に一人になった私は考える。
尾浜さんと共に鉢屋さんも長屋へと帰った。
つまり、久々知さんがいるであろう長屋に今行けばまた鉢屋さんと会うことになるかもしれない。
(逃げてても仕方ないって決めたじゃないか)
それに、先程は何も無かった。
監視があったからかもしれないが、信じるしかない。
今行かなければきっとずっと返せないままになる。ずっと逃げ続けることになる。そう思った私はくないを手にして立ち上がった。
障子に手をかけたところで止まる。
(……ガーゼしてると気にするかな)
怪我をしてから一週間経っている。
そろそろ普通の人でも完治していてもおかしくない時期だろう……否、それは無理があるだろうが、それでも傷口は塞がりはじめる頃のはず。
疑われそうになったら私傷の治りが早いもので、と誤魔化してすぐに退散しよう。
テープで止められたガーゼを外し、ごみ箱に捨てた。
(あれ、なんだろ。この違和感)
何かが、
何が、という訳でもない。
家に帰ってきたら物の配置が変わってるような気がするとか、そんな違和感だ。
そう、ちょうど、小松田さんが髪を切ったことに気付いたあの時のような。
「……? 気のせいか」
部屋を見回しても動いたものはない。
思い当たるものもなく、気のせいで済ませる。
再び障子に手をかけて今度はしっかりと開けた。
さて向かうかと意気込むが、困ったことに久々知さんの住む長屋の場所が分からない。
今までに見たことがなかったし、適当に歩いていれば辿り着けるだろうか。
「難しい顔してるけど、どうかしたの?」
「山本さん」
部屋の入口で悩んでいると、何やら綺麗な着物を抱えていた山本さんが右からやって来た。
「少し用事があったんだけど、忙しいかしら?」
「くないを返しに行こうかなと思ってたんですけど場所がわからなくて……」
「ああ、久々知くんに……。それなら私が案内するわよ。それが終わったら時間ある?」
「私は平気ですけど、いいんですか?」
もちろんと笑顔で答えてくれる山本さん。
着物を一旦私の部屋に置いてから二人で久々知さんのいる長屋へと向かった。
「頬きれいに治って良かったわ。傷跡でも残ろうものなら私久々知くんをぶん殴ってたところだった」
上品に笑う彼女の笑顔はとても可憐で見惚れてしまったが、発言が冗談に聞こえなくて私は乾いた笑いを零すしかできなかった。
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作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年1月13日 19時