記憶55 ページ10
頬には新しいガーゼを、腕にはハンカチではなく包帯を巻いてもらった。
何もないのに新しいものを使うなんて勿体ないと断ったが、そうしないと誰かに怪しまれるかもしれないからと言われて言い返せなくなった。
雑渡さんは帰った。
忍務から帰る途中に寄っただけだったそう。
本当に自由な人で、よく分からない人だ。
忍者は堅苦しい……というか、冷徹なイメージがあったが、十人十色。
彼らもまた、
*
*
*
食堂でおばちゃんに事情を話すと、食器を戻してくれれば持ってってもいいとのこと。
私はお腹が空いていなかったため、伊作さんひとり分だけを頼んでよそってもらう。
(うどん……)
汁物とは、難易度が高い。
並々と注がれた汁を零さないように、熱々のうちに届けられるように。
慎重かつ早足で歩く。
そういえば、いつから伊作さんもタメ口で名前を呼んでいただろうか。
最初に頬の手当をしてもらった時は敬語だった気がする。
(優しい、か……)
私にその印象を持ってくれたからこそ、敬語を外して接してくれていたのだろうか。
だとすると、その気遣いはどこか的外れで笑ってしまう。
胸が暖かくなるのは、うどんから立ち上る湯気のせいだ……なんて、さすがに無理があるか。
「ふふっ」
山本さん、小松田さん、伊作さん。
学園の人ではないが雑渡さんも。
少しづつでもここの人たちと距離が縮まっている気がして嬉しくなった。
いつの間にか着いていた医務室の前で声をかけると戸が開く。
授業に間に合わなくなるかもしれないと急いで食べる彼だったが、早足の甲斐あってうどんは熱々で。
口の中を火傷したようだった。
不運だと嘆く彼を必死にフォローする。
なんだか少し楽しいと思ってしまったのはここだけの話だ。
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作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年1月8日 20時