ページ ページ39
ヘッドホンで耳のモジュールを隠し、替えの当てはなかったので服装は変わらぬレザージャケットで出発した。道を通り抜ける傍らで監視カメラの映像を改竄し、街中の至る所に設置されたヒューマギアを記録する装置からはデータを抜いた。いずれも痕跡を残さない完璧なハッキングで。
「久しぶりだな、A」
なのに。なのにどうして──滅、君がここにいるんだ。
季節柄、そして時間帯の関係で人もいない海辺の歩道。行く手には、紫の上に羽の意匠があしらわれた羽織りを重ねた愛しいひとが立ち塞がる。
こうなったら予定を変更してでも、どこかに。
片足を後ろに引き、戻ろうと鋭く振り返れば、後方にはスーツを纏った迅が仁王立ちで待ち構えていた。腕を組んだそのポージングは、大人びた格好と髪型に変に似合っている。
「残念。逃がす気はないよ」
左右に道はなく、つまり彼の宣言通り、私に逃げ場は残されていないも同然だった。
「……どうしてここが？」
「お前のハッキングは綺麗すぎる(・・・)」
「成程」
痕跡の消去が丁寧すぎたか。
諦めて力を抜いて……抜くフリをして、すかさずコートから二丁の銃を取り出す。手早く構え、前方後方の彼らの足元を寸分違わず撃ち抜いた。轟音と土煙に怯んだ隙に、迅の真横をすり抜けて駆ける。後方にもばらまいたせいですぐに弾切れ、感覚を頼りにリロードして後方を窺った。開けられた距離はそれなりに大きい。女性と設定されたこの機体は、男性のそれより軽く俊敏性に優れているのだ。
しかし、彼らも私にしてやられるばかりではなかった。
角を曲がった矢先、足払いを掛けられて転倒した。立ち上がりかけるも腕を掴まれ後ろに封じられ、身動きが取れなくなる。視界の端に揺れるオレンジの紐とレンズが認識する機体番号は、間違いない。
「雷、兄さん……ッ!?」
「悪いな、A」
おかしい。データでは今、彼は宇宙に居るはずなのに。まさかハッキングを見越した上で偽装データを掴ませたのか。
見抜けなかった愚かな自分への悔しさを込めて、反撃を開始した。足を雷兄さんの膝の裏に引っ掛けて手前に蹴りこみ、背後に体重をかけ体勢を崩させる。僅かに緩んだ拘束を見逃さず振り払い、さらに先へ。
念の為視界にスキャンをかけると、案の定トラップが張り巡らされていた。流石は慎重派の滅、何重にも予防線を張っているか。警戒はすなわち私への評価の比例でもあるので、複雑な気分である。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
深月(プロフ) - 横峯俊さん» お久しぶりです、まだ見てくださっていたのですね……！励みになります、ありがとうございます (2021年7月23日 9時) (
レス) id: 48437a73d0 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも拝見させていただいてます。いつまでも、更新は待っています！ (2021年7月20日 18時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水記 | 作成日時：2020年8月13日 20時
