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龍我くんが家まで送ってくれて、アパートの玄関の前でお別れした。
部屋に入ってすぐベッドに飛び込む。
疲れていたのか急に眠気が襲ってきて、化粧を落とす暇もなくわたしは眠りに落ちた。
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夢に懐かしいアパートが出てきた。
消えかけた201という文字を確認し、ドアノブを回す。
趣味の悪いハイヒールを跨いで部屋に入ると、見慣れた景色が広がった。
狭いワンルームの中には、畳に似合わない折り畳み式の白いテーブルがぽつんとある。
その上には、開きっぱなしの化粧ポーチに、灰皿代わりの飲みかけの缶チューハイ。
それから少しつぶれた煙草。
「ママ?」
浴室から異臭がした。
汗ばんできた左手で制服の裾をぎゅっとつかんで、意を決して浴室のドアを開ける。
彼女はそこにいた。
一番気に入っていたドレスとヒールを身に纏い、丁寧に長い髪を巻き下ろした彼女の表情は、穏やかにも見えた。
あのとき初めて、母のことを綺麗だと思った。
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飛び起きて、背中にびっしょり汗をかいていることに気づく。
時計を確認する。
まだ12時、出勤までは時間がある。
それにしても、どうして今さらこんな夢を見たんだろう。
ふと、父親の言葉を思い出した。
“ますますあの女に似てきたな、あの下品な顔を思い出す。
きっとお前もああなる、ああやってしか生きられなかった気の毒な女の血が流れてるんだから”
その通りになった。
わたしもあの人のように、誰にも愛されず、誰のことも愛せずに死んでいくのかもしれない。
彼女は死ぬときわたしに何も残さなかった。
自分を着飾って自分自身を慰めることだけで精一杯だった。
わたしは、母からの確かな愛が欲しかったのに。
初めて信じた雄登の“ずっと愛してる”も、もう過去のことになってしまっただろうか。
母や雄登と同じように、龍我くんだってきっといつか離れていく、そう思うと怖くてたまらなくなった。
左頬のえくぼも、
不意打ちの小さなキスも、
繋いだ手の感触も、
全部、おぼろげにしか思い出せなくなる日がきっと来る。
それでも、龍我くんが傍にいてくれる内はその優しさに甘えていたいと思ってしまうわたしは、やっぱり母に似たずるい女だ。
そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
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きき(プロフ) - とっても続きが楽しみです。 (2018年7月24日 17時) (レス) id: 9675e7c630 (このIDを非表示/違反報告)
はら - オリジナルフラグをちゃんと外して下さい違反行為です。ルールをちゃんと理解の上作品を作って下さい (2018年6月18日 7時) (レス) id: 1efba5a087 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆ | 作成日時:2018年6月18日 7時