trip ページ3
？「ハァッ、ハァッ……」
夜。人通りも光も少なくなった暗黒の道で、少女はただひたすらにはしっていた。
この少女の名前は西園寺優羽。
ごく一般の家庭に生まれた、どこにでもいるような少女。
彼女は、今自分がどうしてこのような行動をとっているのかさえ、わからなくなっており、無我夢中
に息を乱していた。
その様子は、まるで何かから逃げているようだった。
＿＿＿＿＿＿＿
優羽side
必死に先ほどの出来事を思い出す。
歪んだだ人々の顔、乾いた涙でべとべとな自分の顔、手に握られているスマートフォンと財布。
私はなぜここにいるのだろう、どうして走っているのだろう。
何も考えられない頭を必死に動かして、汗を拭う。
いつも歩いていた通学路を辿る。
学校の前を通り過ぎ、知らない住宅街を走り抜ける。
何もない並木道へ飛び出す。
優羽「……っう、」
さほど体力のない体で、長く走っていたせいなのか
遂に私は体に限界を感じ、その場でへたり込んでしまった。
その時だった。
聞きなれない動物の遠吠えと、地震のような轟きが、私の体を貫いた。
弾かれた様にように顔を上げると、道の向こう側から見慣れない黒い馬車が走ってくるのが見えた。
その馬車は、悲鳴のような音を上げながら、徐々に私に近づいてくる。
逃げなきゃいけないよね……
でも、もう、体に、力、入ん、ないや
私の人生、ここで終わっちゃうのかなぁ…
虚ろな顔をした私の記憶は、
馬車との距離が目鼻の先くらいになった時、
遂に途切れたのだった。
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作者名：苺恋 | 作成日時：2022年6月2日 20時
