ハマの人たちと。【ヒプマイ短編集】

【銃兎】 ページ5

『銃兎』



　「…」



　『ねえ、銃兎ってば』



いつものように遅く帰ってきたかと思えば、

折角私が待っていてあげたというのにも関わらず、

パソコンに向かって何やら作業をし始めていた。



一切構ってくれる様子がないため、

彼にバックハグをかましてみる。



と、作業の内容を見られたくないのか、

手袋を付けたまま私の目を塞いでくる。



　「…何ですか、どうせ構えとか言うんでしょう」



　『大正解、流石だね』



　「はあ…」



　『というわけで構って』



分かっているのなら最初から構ってくれればいいのに。



だけど、私の期待とは反対に、

銃兎はまた黙って作業を始めてしまった。



…何なんだ。



　『ねぇ…』



私だって、いつも我慢してるんだ。



これは今回に限ったことじゃない。



たまたま今日がそうだっただけなら諦めていた。



でも、それがいつもだから。



たまには、甘えてみたっていいじゃないか。



鬱陶しいことくらいは分かっている。



私が逆の立場でも、面倒くさいなとか思うんだろう。



それは分かっているんだ。



…だけど、どうしても。



ずっと待っていただけあって寂しくて、

半分無意識に彼の服をくいっと引いていた。



　「はあ−…。」



彼は、わざとらしくため息をつくと、私を正面から見てくる。



何かを言うつもりなのだろうか。



　「いいですか、私は明日非番です」



　『…えっ、うん？』



突然何を言い出すのかと思えば。



嬉しい報告ではないか。



これは、素直に喜んでいいんだよね？



　「今この作業を終えれば、明日は一日中貴女の相手ができます」



　『…ぅ』



彼が何を言おうとしているのか、分かった気がする。



明日相手してほしいのなら、

今は大人しくしていろ、という話か…



　「どちらがいいですか？

　 今、私が貴女に絆されて、明日折角の休みを無駄にするか。

　 さっさとこれを終わらせて、明日は一緒に過ごすか。」



…本当に、ずるいよ。



今すぐに構って欲しいところだけど。



今まで散々我慢してきたわけだから、このくらい平気だ。



　『…大人しくします』



明日は相手してくれる…



彼は彼なりに、私の気持ちを汲み取ってくれていたのだろう。




自惚れかもしれないけど、そういうことにさせてもらおう。



　「物分かりが良くて助かる。悪いな、中々構ってやれなくて」



…私の扱い慣れてるなぁ

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