ハマの人たちと。【ヒプマイ短編集】

８．バレンタイン【左馬刻】 ページ17

『今日は何の日でしょうか』



事務所のソファで、

つまらなさそうにスマホをいじっている左馬刻に声をかける。



　 「乱数の誕生日」



スマホから顔を上げることすらせず、

予想外の答えが返ってくる。



…そういやそうだったな、後でお祝いくらいしてあげよう。



それを覚えてあげているあたり、

左馬刻も捨てたものじゃないな、なんて。



…いや、それは今は正直どうでもいいんだ。



　 『…』



気付いてるんだろ、という意を込めてジト目で左馬刻を見つめる。



元仲間の誕生日を覚えているこの人が、

バレンタインなどという一大イベントを逃すわけがない。



ああ、そうか、私から話なんて振らなければよかったんだ。


なんて後悔はもう遅い。こうなりゃ意地だ。


左馬刻が折れるまで耐えてやる。



　 「…バレンタインだろ、チョコ寄越せ」



ようやくこちらを見たかと思えば、
上から目線でそんなことを言ってくる。



上目遣いなのに上から目線て…



…上から目線なのはいつものことだし、

確かに私が期待していた返事ではあったはずなのだが。



　 『もうちょっと謙遜できないの』



溜息交じりに、無駄だと分かりつつそう抗議する。



　「んで俺様が謙遜すんだよ。お前がしろよ。」



　『意味わかんないんだけど』



彼に正論で抗議しようと無駄だということくらい、もう分かっている。



流れ作業のように反論し、

もう諦めて鞄からチョコを取り出す。



　『…ん』



　「あ？あー…サンキュ」



左馬刻の目の前にずいっとチョコの入った箱を差し出す。



と、それが何かを理解した彼が、

珍しく礼を言ってきたかと思えば、

自然なスキンシップかのように軽く口づけをしてきた。



　『…！？』



そのまま、何事もなかったかのように、

箱のラッピングを解いていく彼に、動揺を隠せない。



　「…ハッ、なに固まってんだよ」

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