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『そいつの肉体を、俺が乗っ取った。もうそいつは死んだも同然だ。悪かったな』
魂で肉体を乗っ取ると、肉体を思いのままに操ることができる。しかし、元の魂が完全に消えるわけではない。
俺の受肉体である迫田太一の記憶や知識の一部が、俺の中に流れ込んでくる感覚が、今もある。
コイツの全てが分かるというわけではないが、コイツが当たり前にやってたことは俺にもできる。
例えば、俺の生きていた時代には電車なんてなかったが、コイツが電車に乗ったことがあるから俺も乗り方が分かる、という風に。
こんなふうに記憶が共有されているから、俺には分かっていた。
俺が受肉する前、コイツがこの女に暴力を振るっていたことを。それも、かなりしょうもない理由で。
「…別にいい。いなくなってくれたほうがよかった」
『…だろうな』
「?」
女の顔や腕にできている、痛々しい傷とあざ。
戦意のない女を一方的に殴るとは、どうやらこの時代の男には騎士道精神ってものがないらしい。
俺は女の顔の傷にそっと触れて、反転術式を回す。
『殴って悪かったな』
「……」
『コイツの代わりに謝っとく』
・
あたおか男の言っていることが、つくづく理解できない。
肉体を乗っ取る?魂?なんかの宗教か?
でも明らかに太一とは違う人物で、その上で彼の名前を知っていて、太一はどっかに消え去って、という
状況が状況であるがゆえに、そんな意味不明な話すら信じそうになってしまった。
てか、いなくなったのが大切な友達とかじゃなくてよかった。
「…別にいい。いなくなってくれたほうがよかった」
『…だろうな』
青髪男の全部知っているかのような口ぶりに、違和感があった。
こっちに歩み寄ってくる男。
元彼に殴られてヒリヒリと痛んでいた頬に、男の手が優しく添えられる。
いきなりの行動にビックリしたせいなのか、この人が異常にイケメンだからなのかは分からないけど、不覚にも鼓動が速まった。
…少しずつ、痛みが消えていく。
腕にできていたあざも小さくなって、しまいには正常な肌の色に戻った。
『殴って悪かったな』
「……」
『コイツの代わりに謝っとく』
「今…何したの?」
『傷を治した』
「どうやってそんなこと……」
____この人は本当に、何もかも、おかしな人だ。
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ヤハウェ(プロフ) - 由良の門をさん» そういう先輩っていうのは社会にごろごろいますから気をつけていきましょうね‼️鹿紫雲たんみたいなのが一家に1人いれば、日本社会はもっとマシになるはずであります…応援あざむぁす! (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - うみさん» ありがとうございむぁす‼️いい話ですよね😍オイラも好きですよ✨ (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - 企画を丸投げする先輩共腹立つと同時に、鹿紫雲の優しさが主人公にしみますね・・・!更新楽しみです!頑張ってください!!!! (1月15日 23時) (レス) @page17 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 作者さまの小説の中でこの小説が1番好きです!鹿紫雲目線と主人公ちゃん目線の書き方、文章の表現が素晴らしいです…好き! (11月29日 21時) (レス) @page23 id: d6837fdd33 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - あわさん» そう、鹿紫雲ちゃんは最高なのですよ!!沼れ!沼れ!いや、もう沼っているはずだお。この小説を読んだことがその証拠さ… (2023年4月13日 0時) (レス) id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヤハウェ | 作成日時:2022年12月3日 0時