突如雷神【鹿紫雲一】

第１０章 ページ40

今日はAと２人で街に出かけている。



買い物をするのはほとんどコイツで、俺はただの荷物係だけど。





「鹿紫雲さんの新しい服も買っときたいね。薄いのしか持ってないでしょ」



『別にそんなに寒くねぇけど』



「日本の冬はこれからですぞ」





俺は別に金を稼いでいるわけでもないから、流石にAに何か買わせようとは思わない。



でもコイツは、俺が不自由なく暮らせるようにするためにわざわざ色々買い与えてくる。

Aが嫌々言いながら朝早く起きて、仕事に行って稼いでる金なのに。


よくこんな、ただの居候の男に易々と貢げるもんだ。






「ねぇ、何かあっちの方すごいザワザワしてない？」





Aはそう言って、騒がしい方を見遣って立ち止まった。



向こうの方に、何やら人が集まっている。



Aは何があったか気になったのか、人が溜まっている方へ歩き出した。






何となく、俺には分かった。


向こうで、誰かが死んでいる。

血の匂いがかなり濃いから、きっとかなりの惨劇があったのだろう。






騒がしさはどうやら誰かが飛び降りをしたことが原因らしかった。


人溜まりの中心には、見るも無惨な死体がある。





『…酷いもんだな』





自ら死を選んで、しかもあんな凄惨な姿を自分の最期の姿にするとは。



…まあ、俺が殺してきた奴らの最期の方がもっと悲惨だったかもしれないが。





「……」





隣に立って現場を見ていたAは、ずっと黙っていた。

そしてしばらくしてから、俺の腕を掴んでコトンと額を預けてくる。





『…どうした？』



「いや、ちょっと…ああいうの、見たことなかったから…」





Aは明らかに顔色が悪い。


…そうか。

今のご時世、あんな風に死ぬ人間は多くないか。





『帰るか』



「…うん」





Aは小さく頷くと、少し重い足取りで歩き出した。


さっき見た死体に、相当ショックを受けたんだろう。


あの程度の光景を遠くから少し見ただけで、こんなにダメージを受けるAに、少しだけ驚いた。






…あんな死体、俺は数え切れないほど見てきた。



誰かに手をかけられた人間も、俺が手をかけた人間も含めて。


ああいう悲惨な光景も、俺にとってはかつての日常の一部に過ぎない。








……今、改めて思い知らされた。


俺とコイツでは、見てきた世界がまるで違うのだということを。

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