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怒りが涙腺に直結しているからなのか、この感情の昂りの原因が悲しみとか悔しさだからなのかはよく分からない。
とにかく、喉の奥が熱くて、痛くて、鼻がジーンとする。
後で冷静になってから分かった。
鹿紫雲さんにちょっと優しくされて、それだけで彼に期待してしまうチョロい自分が嫌だった。
鹿紫雲さんにとってはどうってことない、彼の一挙手一投足に、勝手に振り回されて悔しかった。
全部全部、自分のせいだったのに、怒りの向けどころに血迷って、優しくしてくる鹿紫雲さんが悪いんだって思い込んで
あんなことを言ってしまった。
鹿紫雲さんは立ち上がって、私の目の前に立つ。
彼の手が私の手首に触れるのを感じて、私は振り払った。
「…触んないで」
鹿紫雲さんの表情は、さっきからずっと変わらない。いや、いつもと全然変わらない。
いつもみたいに真っ直ぐな瞳で、私を見つめてくる。
鹿紫雲さんは私と違って、私の言葉とか行動にいちいち感情を揺さぶられたりしないんだろう。
「…質問、答えてよ。何でなの…?」
『…別に目的があるわけじゃねぇよ。俺はお前が心配だから、』
「だから、それは何でなのって聞いてるの!」
鹿紫雲さんは呆れたように天を仰ぐ。
『心配くらいするだろ普通に。そんなに俺に心配されるのが嫌かよ』
鹿紫雲さんにとっては普通でも、私は特別に感じちゃうんだよ。
なんてことないことを、なんてことないこととして受け止められるほど私は堅くなくて、簡単に期待しちゃう女なの。
それを鹿紫雲さんが分かってくれなかったら、どうしたらいいの。
私といることなんかより、どっかの戦場で強い人と殴り合う方が楽しくて好きなんでしょ。
死滅回游みたいなやつが始まったら、嬉々としてここを出て行って殺し合いしに行くんでしょ。
そしたら私の気持ちはどこに行くの?
思い詰めるうちに、どんどん余裕がなくなっていって、私は馬鹿なことをした。
鹿紫雲さんの首に抱きついて、わざと身体を密着させる。
…私の悪い癖だ。
「鹿紫雲さん、」
自分の価値を、体で確かめようとする。
まるでそれが、自分に残された最後の砦とでもいうように。
「私のこと…抱いて」
鹿紫雲さんが、静かに深く息をしているのが分かった。
「…抱いてよ。別に損することなんかないでしょ?」
鹿紫雲さんはしばらくの間、何も言ってくれなかった。
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ヤハウェ(プロフ) - 由良の門をさん» そういう先輩っていうのは社会にごろごろいますから気をつけていきましょうね‼️鹿紫雲たんみたいなのが一家に1人いれば、日本社会はもっとマシになるはずであります…応援あざむぁす! (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - うみさん» ありがとうございむぁす‼️いい話ですよね😍オイラも好きですよ✨ (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - 企画を丸投げする先輩共腹立つと同時に、鹿紫雲の優しさが主人公にしみますね・・・!更新楽しみです!頑張ってください!!!! (1月15日 23時) (レス) @page17 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 作者さまの小説の中でこの小説が1番好きです!鹿紫雲目線と主人公ちゃん目線の書き方、文章の表現が素晴らしいです…好き! (11月29日 21時) (レス) @page23 id: d6837fdd33 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - あわさん» そう、鹿紫雲ちゃんは最高なのですよ!!沼れ!沼れ!いや、もう沼っているはずだお。この小説を読んだことがその証拠さ… (2023年4月13日 0時) (レス) id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヤハウェ | 作成日時:2022年12月3日 0時