突如雷神【鹿紫雲一】

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抵抗しないからといって、それが彼女の望んでいることであるとは限らない。




でもきっと、それを分からない男が今の俺の立場になったら

酔っ払って泣いてる女を抱いてやったとか、そんな自慢話のネタを作るためにコイツを利用するだろう。




コイツにしてやるべきことは何なのかを、男としてではなく、一人の人間として真剣に考えてやった奴は

声にならない彼女の訴えに、きちんと耳を傾けようとした奴は


今までにいたんだろうか。




男の理性を粉々に打ち砕いてしまいそうなAの潤んだ瞳を見ながら、そんなことを考えた。





『…言えよ。聞いてやるから』





頬から手を離して、俺の手に重ねられていたAの手を握る。


あまりに細くて小さいせいで、それは俺の手の中にすっぽりとおさまった。




Aは下を向いたまま、何も言わない。





俺はAの手をそっと引いて、俺の方に倒れかかってきたAの身体を抱きしめる。



頭を撫でてやると、安心したように彼女の身体の力が抜けるのが分かった。





「……もっと、」





小さな声で呟くA。


言葉を聞き取れるように、少しだけ顔を近づける。





「…もっと、みんなに…手伝って欲しかったの」



『……』



「私が準備してるあいだ…他のみんなはね、飲みに行ったり…遊びに行ったりしてて…


何か…いっつもそうなの。私がちゃんと…

ちゃんと、手伝ってほしいって言えないから……」





ため息をついて、そんなことかよと言ってやりたくなった。

もちろん、言わなかったが。




チームなんだから手伝えよと、正面から言ってやればいい。

多少鬱陶しがられるかもしれないが、間違ったことは言っていない。



それができなくても、非協力的な奴らへの愚痴を誰かにこぼすなり何なりしてスッキリするとか

ちょっとした皮肉を言ってみるとかすればいい。



でもそれができないから、コイツは泣いている。

こんなことを言ってやっても無意味だ。






…きっと今までもコイツは、自ら貧乏くじを引いて苦労して、そのうえ怠惰な他人に対して愚痴も不満も言えずに

いつもこうやって、一人で泣いてきたんだろう。



酒の力がなかったら、俺の前でも泣かなかったはずだ。





…典型的な、損するお人好し。


俺に対してもそうだったが、コイツはきっと人の頼みを断れないやつで

そのうえ人を頼れないやつなんだろうと思った。

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