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「あともうちょっとでクリスマスだってさ。まったく信じられん」
布団に寝っ転がっているAは、そう言ってスマホを枕元に投げ出した。
「しかも今年土日じゃん。人多そ〜」
壁にかけられた平成28年のカレンダーを見ながら、楽しそうな顔でそう呟く。
『何か予定あんのか』
気になったからというより、こう聞いて欲しそうな顔をしていたから何となく聞いてやった。
「う〜ん…一応イブは誘われてはいる。ごめんね、一緒にクリパできなくて」
『別に誘った覚えねぇけど』
俺が育った時代にはクリスマスなんてものはなかった。
別に何の思い入れもない。
「25日は一緒に何かしようね。ケーキとか買ってさ」
『しねぇよ。めんどくさい』
「何それ〜。せっかく誘ってあげたのに」
全く傷ついてなさげな顔でそういう彼女は後日結局、25日も予定が入ったと報告してきた。
どこまでも性に奔放で、はしたない女。
自分がAAとしてではなく、女の肉体を持っているだけの生き物としてのみ価値を見出され、それを男に利用されても
コイツはきっと、何も感じないんだろう。
自分が誰かの代替品にされても、コイツはそれがいかに不名誉なことであるかも知らないで普通に代わりを演じて
上位互換が現れればその場所を譲って
また誰かに呼ばれるのを待って。
そんなことを、ずっと繰り返してるんだろう。
…分からなかった。
コイツがこれほどまでに、自分自身の価値を蔑ろにできる理由が、俺には分からなかった。
『…なぁ、』
「ん?」
歯をシャカシャカ磨きながらボーッとどこかを見つめていた瞳が、ふとこちらに向けられる。
誰のことも傷つけることができないほど無力で、繊細な
絹でできてるかのような瞳だった。
『お前、人からの頼みとか断ったことあるか』
「…何、急に」
『人から頼まれて嫌だと思ったことを、最後まで嫌で貫き通したこと、あるか』
「断ることくらい普通にあるけど。急にどうしたの?」
『俺はないけどな、お前に断られたこと』
「そっちが脅迫するからでしょ」
『しなくてもだ』
「…最近ちょっとマシだったのに。またあたおか節発動してるよ。さっさと寝て」
そう言って立ち上がると、俺の横を通りすぎてうがいをしに行くA。
_______「……いえない」
あの日聞いた消え入りそうな声の方が、よっぽど彼女の本心に近いように思えた。
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ヤハウェ(プロフ) - 由良の門をさん» そういう先輩っていうのは社会にごろごろいますから気をつけていきましょうね‼️鹿紫雲たんみたいなのが一家に1人いれば、日本社会はもっとマシになるはずであります…応援あざむぁす! (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - うみさん» ありがとうございむぁす‼️いい話ですよね😍オイラも好きですよ✨ (2月19日 14時) (レス) id: 3429f701c5 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - 企画を丸投げする先輩共腹立つと同時に、鹿紫雲の優しさが主人公にしみますね・・・!更新楽しみです!頑張ってください!!!! (1月15日 23時) (レス) @page17 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 作者さまの小説の中でこの小説が1番好きです!鹿紫雲目線と主人公ちゃん目線の書き方、文章の表現が素晴らしいです…好き! (11月29日 21時) (レス) @page23 id: d6837fdd33 (このIDを非表示/違反報告)
ヤハウェ(プロフ) - あわさん» そう、鹿紫雲ちゃんは最高なのですよ!!沼れ!沼れ!いや、もう沼っているはずだお。この小説を読んだことがその証拠さ… (2023年4月13日 0時) (レス) id: 4505794e30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヤハウェ | 作成日時:2022年12月3日 0時