１７歳から始めるクソLIFE with 禪院直哉

Episode.13 ページ25

この状況に、頭が混乱した。


この人は一体、何を言って……





『…この家の誰に嫌われても別にどうとも思わへん。俺も嫌いやから、どうでもええねん。けど……』





直哉様は押し黙った。


私を抱きしめる力が、グッと強くなる。


　


『……俺、Aちゃんが分からへん』




さっきにも増して弱々しい声で、直哉様は言った。




『俺のこと、そんなに嫌いなんやったら……何で俺の前で泣いたりするん？

…気になるやんか。何か嫌なことがあったんかとか…しんどいんかとか、知りたなるやんか。


助けてあげたい思っとんのに…色々聞いてもテキトーなことしか返してくれへん。

迷惑なんやったら、何で……』





そこで声が詰まって、直哉様はまた少しの間黙っていた。

　



『……俺はAちゃんのこと…いっつも真っ直ぐ見とんのに、Aちゃんは全然俺のこと見てくれへん』





私の心は、色んなことが溢れかえってパンクしそうになっていた。



禪院直哉が使用人に好意を寄せるなんて、絶対にないと思っていた。



心の基盤の部分がひっくり返って、全部がごちゃ混ぜになったみたいで

どんなに頑張っても気持ちが落ち着かなかった。





『でも俺…昨日のが本心なんやって思っても、Aちゃんのこと嫌いになれへんかった』



「………」



『…Aちゃんのこと、ホンマに好きやねん。めっちゃ好きや』




ッ……




『……出て行くとか言わんでや』








今までの自分が、情けなくて仕方なくなった。




私が色んなことが辛くて泣いてしまったとき

抱きしめていてくれたのは直哉様だったのに


その優しさを、自分勝手な理由で忘れようとした。




今までの使用人はされなかったことを、私はたくさんしてもらった。


直哉様が何気ない日常の話をしたり、散歩に誘ったりするのは私だけだった。


　
何で私は、気づかなかったんだろう。





もっと考えるべきだった。


失態を犯してばかりの私を、もう４ヶ月近くお側に置いて下さっている意味を

考えるべきだったのだ。





自分が何を言おうが、この人にはかすり傷すらつかないと思っていたのに


こんなにも深く傷つけていたのだと知り、

そしてこんなにも、私のことを想ってくれていたのだと知って



罪悪感からなのか、好意の返報性なのかは分からないけど



私はこのとき、禪院直哉のことを

好きになりたいと思ったのだった。

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