好物頂上決戦【宮 治】

呆気なく落ちた。 ページ28

.




治side





体調あんま良くないんは分かっとった。




水分を取らなければしにそうなほど暑いし過酷なのに、なぜか手が止まる。


ふた口くらいしか飲めなかった。






そしたら当たり前のように、足元がふらつく。


当然や。運動量、発汗量に対して水分補給追いついとらんし。


めまいもする、身体もあつい。熱が体内に閉じ込められているように感じる。







「(あー…だるい、まだ8月なっとらんのにこの暑さ…)」







頭から水道の水を被っていると、


(人1)が心配そうに顔を覗き込んできた。









「(前至近距離で見たときも思うたけど、まつ毛長いなコイツ…黙っとったら普通に可愛いと思うねんけど…

あ、俺と言い争いしとるせいか)」





ボーッと、体調悪いくせに場違いなことを考える。


北さんに俺のこと報告した(人1)は、俺を支えて医務室へ連れて行ってくれた。



医務室に着いてからも、テキパキと慣れたようにうちわや氷嚢で処置をしていく(人1)。







「(勉強したんやろなあ…バレーのルールも覚えんないかんのに、いっぱい調べて…)」






心がいっぱいになった。


(人1)がマネージャーで良かった、と柄にないことを思った。







差し出された水を、少しずつ飲む。


さっきは飲めなかったのに、不思議や。

俺の様子を見た(人1)は、安心そうに息をついて、ふわりと笑った。







あ、れ。


何や、これ。









…胸が、締め付けられたように、痛い。









「…治？どうしたん？吐きそう？」

「…いや、大丈夫やねんけど、」

「そう？」









バクバク、と心臓は速く脈打つ。


何でや、何なんや。これは、まるで。







そんな俺の様子に、(人1)は首を傾げながらも、

さっきから手に持ってるタッパーを俺の前に差し出した。


蓋を開けると、そこにはたくさんのレモンが。









「…はちみつ、レモン？」

「せやねん。ちょお作ってみた。熱中症なってからじゃ意味ないかもやけど、食べてみて欲しい…です…」


「……」







ちょっと照れて語尾が小さくなっていくのに心の中で笑いつつ、1枚手にとって口に入れた。





広がる、甘味と塩味(えんみ)。








「…おいし？」

「おん。めちゃ美味い」

「良かった〜…実はこれ食べたん治が初めてやねん」









また、ふわりと笑う(人1)。








.









「(…あ、好きや)」









その想いは、ストンと。


呆気なく、自分の心に落ちてきた。

部屋に溶ける。→←鍛えぬかれた身体。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す