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「… ♪ーーー、♪〜〜〜〜」


ピアノの音に混ざって、歌を口ずさむ声が聞こえてきた。


歌声がする方へ目を向けると、冬弥は目を奪われた。


「(…綺麗、だ)」


歌っていたのは少女だった。神山高校の制服に袖を通しているので、この学校の生徒なのだろう。


そもそも学校の音楽室にいるのだから当たり前のことだろうと、冬弥は後から思った。


ただそれ程までに、冬弥には彼女が別世界の人間に見えた。


不純物が混じっていない透き通った歌声に、ころころと鳴るピアノ。


冬弥の目の前がまたしゅわしゅわとはじける。


まるで、炭酸の中にいる様な___。


しばらく、いや実際にはほんの少しの間突っ立っていた冬弥は、はっと我に返る。


冬弥の視線に気が付いたのか、少女は演奏を止めて冬弥の方を向いた。


「(あ、目が…)」


視線が、交わった。


少女は少し驚いた様子で、首を傾げながら薄く色付いた唇を動かす。


「聞いてたの?」


その瞬間、冬弥は息を呑んだ。


その言葉が自分に向けられているものだと気付いたのは数秒後だった。


「あ、ああ」


「そっか。…青柳くん、だよね?」


少女が立ち上がり、冬弥の名前を呼んだ瞬間、冬弥は自分のシャツの胸元を強く握りしめる。


理由は分からないが、嬉しかった。


彼女が自分のことを認識してくれていたことが。

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作者名:レノ | 作成日時:2022年5月7日 23時

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