彼女の思惑 ページ4
「へぇ〜…ここが油屋か〜…噂に聞いてたけどでっけぇな。」
そう言いながら、真っ黒な髪をなびかせて紫苑は言った。面白そうだとニヤニヤしているところを見るときっと彼は、悪戯し放題だと考えているに違いない…。とAは思った。
六年前と全然変わらないこの建物からは、釜じいがすす達と働いている証である黒い煙が煙突から出ていて、もくもくと黒い線を描いていた。
時刻は、夕方にさしかかる手前。もうすぐ油屋が開く頃だ。湯婆婆への挨拶をとっとと済ませたいところだ。
「変なことしないでよ?紫苑。湯婆婆様はすっっごく怖いからね。」
「へいへい。分かってるってば。……でもさ、」
そこまで言うと、紫苑はさっきまでにやつかせていた口角を下げ、急に真剣な顔になり、私の頭を優しく撫でた。
大きくて、少し角張った手。
安心するのは確かだった。
「無理…しなくていいからな。何かあったら俺を頼れよ?」
その“無理”という言葉が、どんな意味を持つのか私には痛いほど分かっていた。
恥ずかしながら私は、幼少期の失恋を引きずっている。その相手がいるところに向かうのだ辛いのは承知の上だ。それに、今は千尋もここで働いているらしい…。すべて知っている紫苑は心配してくれているのだ。
私と紫苑が初めて出会ったのは四年ほど前だった。道行く人に悪戯しては笑い転げるという悪趣味を持つ紫苑は、ある日通りすがりの私に魔法で悪戯を仕掛けた。しかし、私も魔法使いだったため、その悪戯を簡単にはねのけてしまった。それを彼は、ムキになりいつかぎゃふんと言わせてやると私を追いかけ回すようになった。
一緒に過ごす間にどうやら彼は私のことを好きになったとか…。告白されたとき、断ったのだが「絶対に振り向かせる」と、再びムキになり今に至る。今では、互いにお揃いの方耳のピアスをするくらいの仲だ。つき合っているのかどうかも分からない。
いや、つき合ってはないだろう。
「お前の彼氏なんだし。」
と紫苑は、付け足したが、
「いや、違うでしょ」
と否定すると、口をとがらせてあっそ。とそっぽを向いた。そして、指先をクルクルと回し始めた。
すると、指先からは黒い雲が現れていてそれは畳半畳ぐらいの大きさになった。彼の好きな魔法、筋斗雲だ。それに、ひょいっと彼は、乗った。
「俺ちょっと建物を一周してくるな。」
自由人な彼の背中はみるみる遠くなる。私は背中に向かって叫んだ。
219人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時