何時もの風景 ページ30
Aと紫苑がこの油屋に来てから数日がたった。Aは、帳場でせっせと筆を動かし、紫苑は客間の掃除をいつものように指一本でサッと済ませた。
「今日は、なんだかお客が少ないね。」
Aは、ぽつりとそうもらした。
いつもなら客や湯女が忙しそうにあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているのに今日はなんだか人気が少ないような気がしていた。
「そうだね。そういう日もあるんだよ。」
隣で仕事をするハク。なんだか今日は彼も口数が少ない。素っ気ないというか何というか…。そんな事をもごもごと考えていると遠くの方からのんきな声が聞こえてきた。
「A〜!A〜!」
紫苑だ。休み時間になるとこうしてAの元へと足を運ぶ。どこの通い妻だ!とつっこんでやりたい気分だ。彼は油屋の中を真っ黒な筋斗雲に乗っかり悠然とやってきた。すれ違う客も少しびっくりしたように彼を見る。少し眉をひそめる者も居るようだ。
ハクが筆を置き、重い溜息をつく。
紫苑がAの前まで来たときハクはその重い口を開く。
「はぁ…。紫苑、何度言ったら分かる?その雲に乗って油屋の中を移動しないでくれと言っているだろう?」
「は?んなもん俺の勝手じゃん。」
「客に迷惑がかかっているから言っているんだ。」
また始まる二人のこのやりとり。これも何時ものこととなってきている。紫苑はハクを敵対ししたままだ。いつもこの二人を止めるのはAの役目だ。
「だいたい、其方は相手を敬う心が欠けている。」
「あ?んなもん知るかよ。だいたい、お前だって」
「お前ではない。ハク様と呼べ。口を慎め。」
「何だと!?」
「はい!ストップ!!紫苑!一旦下がって!」
Aは紫苑の腕を引き、一旦ハクから引き剥がす。しかし、その黒い瞳の眼孔はハクをとらえたままだ。
そこまでライバル視しなくても…とAは少し呆れる。
フンッ!と互いに鼻を鳴らし、ハクは筆を執る。
一方の紫苑はAの隣で頬杖をつきながら彼女の仕事をする様をまじまじと見つめる。先日、「何でそんなに見るの?仕事しづらい…。」と言うと「この角度が好き。」と太陽のようにニカッと笑うものだから邪魔!と言えなくなってしまった。
しばらくこの状態が続いた時だった。
「ハクーーーっ!」
元気な声とともにポニーテールを揺らしながら千尋が走ってきた。
「千尋!」
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時