＊ ページ46
.
『ごめん、なさい…』
他に何も言葉が思いつかなくて
只々萎縮して謝る事しか出来なくて、本当に情けない
「だが、いつも一生懸命だ」
『そ、そうでしょうか』
「ああ、僕にも一生懸命だろう」
極めて無表情で視線をこちらに向けた彼
慌てて俯いた
彼に関しては、一生懸命さが伝わっていたと思うと大変恥ずかしい
彼に似合う女になる為に、常にお淑やかに振舞っていたいってのが願望なのに
現実は中々上手くいかないものである
だが、次に彼が発した一言に、私は
「―――貴様は、可愛い」
耳を疑った
いつの間にか視線を資料の方に戻して、事も無げに紡がれた其の言葉に、思わず顔を上げると
もう一度こちらを向いた彼と目が合って
そしてゆっくりと頬を撫でられる
「故に僕が守る女に値するのだ」
―――嗚呼、熱上がりそう
ゆっくりと近付いてくる其の薄い唇が、私に到達する迄後数粍
忙しなく拍動する心臓は一旦無視して、目を伏せた
＊
「――何故逃げる」
『いや、だって…』
立ち上がる私、其の腕を掴む彼
彼らしい淡薄なキスを数度交わして、私の心拍は最早メーターを振り切った今、これ以上彼に触れていては
�� 恋人に心臓発作を誘発されて死亡した女 ��
って見出しで翌日の週刊誌の一面を飾るという異例の事態になり兼ねない
なのに、あろう事か、この人は
「寝室で寝れぬならここで寝ればいい」
と、自身の膝を叩いたのだ
よく考えてほしい
ポートマフィアの、芥川龍之介が、だ
例え相手が恋人だとはいえ、易々と膝を明け渡すなんて事があって善いのか
否、私的裏社会の常識では断じてあってはならない
『死ぬ気で寝室で寝ます』
「何故其れ程必死になる」
『現代裏社会の秩序の為！』
「減らぬ口だな、又塞がれたいか」
『其れは私の心肺停止阻止の為にご遠慮願いたい…』
あーだこーだと不毛な云い合いを一通りして、結局、強引に腕を引かれて彼の膝に頭を乗せる羽目になった
絶対に寝れっこないって思っていたんだけど
「撫で甲斐のある髪だな」
絶え間なく、さらさらと髪を撫でられて、段々と眠気が襲ってくる
意識を手放す間際、薄く開いた目が確かに捉えた彼の優しい瞳はきっと、私しか見れない、超絶レアだ
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 754人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菊 - 文体もストーリーもオチのつけ方も本当に素晴らしい！読んでいてきゅんとしたり、吹き出してしまうような温かみのあるお話ばかりで大好きです。キャラクターの性格もよく理解されていて、楽しく読ませていただきました。次回作楽しみにしています！！ (2018年5月28日 19時) (
レス) id: 86eebfe98b (このIDを非表示/違反報告)
クコ(プロフ) - どの話も一つ一つの言葉選びがとてもツボでした！ステキな作品に出会えてよかったです！リクエストなのですがお餅さんの書かれる谷崎君が読みたいです！シチュエーションは出来れば谷崎君からの告白が良いです。 (2018年5月28日 5時) (レス) id: c68ef9c665 (このIDを非表示/違反報告)
黒木燈(プロフ) - めっちゃ好き…。文の書き方っていうかなんて言うか…取り敢えず続編作って下さい…！！後小型犬拾いました。の奴凄く気になる…！連載とかしないですかね？ (2018年5月28日 0時) (レス) id: b7d60aca1c (このIDを非表示/違反報告)
白薔薇 - 大きな犬拾いましたの夢主が出張でいない時の太宰さん目線欲しいです (2018年5月27日 21時) (レス) id: 77783d49a8 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - どのお話も素晴らしいです！できれば、続編も見てみたいです！ (2018年5月27日 19時) (レス) id: 044bba1da0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お餅
| 作成日時：2018年5月18日 23時
