【文スト】彼らと私の恋愛観

＊ ページ39

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『――終わったあ！』

「ふふ、お疲れ様です」


定時前に急いで始めた報告書だが、終わったのは結局、退勤時間を大きく回った午後七時


暖かい陽気になって、陽が長くなり始めた最近

窓の外は未だ夕日で明るい



「お茶、よかったらどうぞ」

『ありがとう、本当に良い子だねえ敦君は』

「Aさんが教えてくれたんですよ？」

『そうだっけ？』


碌な教育をした覚えはないんだけど

意外とましな事も云っていたのか私



「先輩に何か頼みたい時は、まずはお茶を出して機嫌を取ってからにしろって」

『………』


純粋な少年になんて事を教えているんだ私は

矢っ張り碌な事ない


我乍自分の教育方針を疑うよ



『ごほん、で、頼み事って？』


一つ、咳払いで誤魔化して、敦君の方に向き直ると

何やら神妙な面持ち



「その……」


挙句もじもじと視線を自身の膝に下げてしまった


―――そういう所だよね、本当


私の過干渉意欲を掻き立てるのが上手い事この上無い少年なのだ

可愛いの極みである


又其の反応に癒されようと、ずいっと、椅子ごと詰め寄って顔を近付けた



『――如何したの？思いきって云ってみなよ』

「……っ」


途端に顔を赤く染める敦君

―――全く君って子は



『本当に可愛いねえ』


にこりと笑って目を合わせると、豁然と、目の前の少年の空気が変わる気配がした


「Aさん」

『………え』



名前を呼ばれて、刹那、ハッとした時には彼の唇が離れた後だった


尚も至近距離の彼が


「僕だって男です、可愛いだけじゃ、不満ですよ」


と、いつものように、眉を八の字に下げた


何ら変わらない其れだが、可愛いと思う余裕なんてなくて、只々目を丸くする


『えっと、敦君、お姉さんを揶揄ってるのかな？』

「揶揄ってるように見えますか？」

『………』


黙り込む私に、先刻よりも少し長めのキスをした敦君


流石に悟って、心臓が大きく揺れ始める


「僕、本気です、これからは、男として意識して下さい、これが僕の頼み事です」


そんな口説き文句、何処で覚えてきたんだ

そんな、一丁前に男みたいな表情をして、どんなギャップだよ


年甲斐もなくドキドキしちゃったじゃないか


『私を、如何したいんだよ君は…』

「出来れば、僕で一杯にしたいです」


と、可愛らしく笑って又近付いてくる敦君を、突っぱねる事なんて出来なくて


可愛さ余って憎さ百倍、とはよく云ったもんだ


矢っ張り、可愛いは罪である


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