【文スト】彼らと私の恋愛観

＊ ページ37

.


給湯室で珈琲を淹れていると、タイミングよく想い人がやってきた


「珈琲か」

『お茶淹れてあげようか？』

「よく判ったな、頼む」


急須に茶っ葉を入れる私の隣で湯を沸かし始めた国木田


おそらく、昼食のカップラーメンの為だろう


『毎日インスタントで飽きないの？』

「体には悪いが仕方がない」

『お弁当作ってくれる人居ないもんね』

「お前は一々厭味を云わないと話せないのか」



ぐらぐらと揺れるポットの湯に比例するように、私の気持ちも揺れている

今、云ってしまうか、否か



「人の心配ばかりしていないで、自分も好い人を見つけたらどうだ？」

『………そうだね』

「お前は料理も出来るし気も利く、その気になれば男は放っとかないだろ」

『本当にそう思う？』

「俺は嘘もお世辞も云わん」

『そう…』



急須で揺らして淹れたての茶を湯呑みに注いで、一つ、息を吐いた

後ろで国木田もラーメンに湯を注ぎ終えた気配を感じ取る



『…………あ、茶柱立った』

「何？どれだ」


振り向いて、湯呑みを覗き込もうとする其の胸倉を掴んで一思いに引き寄せた


そして、触れるだけのキスを見舞ってやった



「………は？」

『その気になれば男は放っとかないんでしょ？私、今その気になったんだけど』

「い、いや何も俺じゃなくても…」

『国木田は男じゃないの？』

「おおお俺は男だ！」


そんなに慌てて訂正しなくたって知ってるよ

ずるりと眼鏡がずれて、慌てふためく其の姿は最早、いつも堅物じゃない


今迄、ほんの数回女性に云い寄られているのを見た事があるが、そんな反応じゃなかっただろう

冷静沈着に、ぴしゃりと断りを入れていただろう


長い事片思いをしてきたが、この表情は初めて見た



『私、国木田がいいんだけど』

「お、俺は＿＿＿ 」

『配偶者計画の条件五十八項目』

「………お前其れ」

『大体満たすんだけど、私じゃ駄目なの？』

「読んだのか！？」

『読んだ』

「ま、枕にしてただけじゃなかったのか！？」

『読んでから枕にしてたから毎回魘されたよ』



国木田の理想云々には余り興味は無いが、いかんせん理想主義で且つ現実的な男なので

オトすのに苦労する事を見込んであの手帳は読了済だ


「そこ迄して…」

『好きだからです』


云うと、目を丸くして暫く、ほんのりと顔を朱に染めた彼は、慌てて背を向けた


「ラ、ラーメンが伸びる、茶、有り難うな」



堅物攻略の日は、きっと近い


.

可愛さ余って憎さ百倍→←理想の女

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す