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『――ば、莫迦って…』
「莫迦じゃねぇか、俺が手前に愛想尽かすわけねぇだろ、どんだけ苦労して手に入れたと思ってンだ」
私の背中に腕を回し乍、呆れ混じりに云う彼は、「其れを云うならこっちの台詞だ」と
「てっきり同情で承諾したンだと思ってた」
『そ、そんなわけ___ 』
「だからこの三ヶ月如何やってオトしてやろうか散々考えてたが、無駄だったらしいな」
少し離れて、ぽんっと私の頭に手を乗せると、にっと綺麗な歯を見せた彼は
「真逆手前がそこ迄俺に惚れ込んでるとは」
と、自信ありげに云って、「隠し上手な女だな」と
先刻自分で、恥ずかしい本音をベラベラと詳らかに吐いた事を思い出して、途端に顔が熱くなる
「何だっけ?俺の事が大好きでー」
『ま、待って、待って待って』
わなわなと上昇する体温を抑え乍彼を制止しても、ちらりと私を見下ろして又指折り掘り返す
「好きで好きで仕方なくて?」
『そっ、そんな事!』
「昨日は寝室の前でそわそわしてた、と」
『あああ、もう……莫迦…』
穴があったら入りたい、とは正にこの事だ
「ん?」
『……好きで好きで仕方ないなんて云ってない…』
「あってンだろ?」
『……あ、あってる、けど…』
頭から煙が出るくらい恥ずかしくて、もう目を合わせていられなくて完全に俯いた私の顎を掴むと彼は、その儘持ち上げて至近距離
「で、仕事は休むンだろ?」
『へ?』
「何とぼけてンだよ、手前が云ったんだろ?それに今から行っても間に合わねぇよ」
『………あ、ち、遅刻だ!』
ぐいっと其の逞しい胸板を押して踵を返すと、即座に捕まって又腕の中
「―――A、今日は仕事、休むよな?」
背後から、そんなに甘い声で鼓膜に直接囁かれてしまっては、ノーと云える人は居ないだろう
居たらきっと其の人の鼓膜は機能していない
『………か、会社に電話します…』
「ん、流石俺の女だ」
軽く頭を撫でて、優しく手を引いて寝室を出る彼、リビングのテーブルに置いてある私のスマホを拾い上げて、「どーぞ」と
――俺の女、か
彼の恋人というポジションに自信が持てなくて、マフィアの女だって親友に揶揄われる度に晴れない気持ちを抱えていたけど
今は其の響きが凄く擽ったくて、嬉しい
勢い任せだったけど、本音を云えて善かった、彼の恋人で善かったって、心からそう思うよ
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白菊 - 文体もストーリーもオチのつけ方も本当に素晴らしい!読んでいてきゅんとしたり、吹き出してしまうような温かみのあるお話ばかりで大好きです。キャラクターの性格もよく理解されていて、楽しく読ませていただきました。次回作楽しみにしています!! (2018年5月28日 19時) (レス) id: 86eebfe98b (このIDを非表示/違反報告)
クコ(プロフ) - どの話も一つ一つの言葉選びがとてもツボでした!ステキな作品に出会えてよかったです!リクエストなのですがお餅さんの書かれる谷崎君が読みたいです!シチュエーションは出来れば谷崎君からの告白が良いです。 (2018年5月28日 5時) (レス) id: c68ef9c665 (このIDを非表示/違反報告)
黒木燈(プロフ) - めっちゃ好き…。文の書き方っていうかなんて言うか…取り敢えず続編作って下さい…!!後小型犬拾いました。の奴凄く気になる…!連載とかしないですかね? (2018年5月28日 0時) (レス) id: b7d60aca1c (このIDを非表示/違反報告)
白薔薇 - 大きな犬拾いましたの夢主が出張でいない時の太宰さん目線欲しいです (2018年5月27日 21時) (レス) id: 77783d49a8 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - どのお話も素晴らしいです!できれば、続編も見てみたいです! (2018年5月27日 19時) (レス) id: 044bba1da0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お餅 | 作成日時:2018年5月18日 23時