Sincere love*047 ページ1
.
「…っはぁ」
走る意味なんてないのに彼の家を出てきた。ちゃんと彼の家の鍵はかけた。彼が出る前に私に渡してくれた合鍵で。
その鍵は戻すべきだったと思う。それなのにまだ手の中にあるのは急いできたからか、離したくなかったからか。
答えはきっと後者だ。
自宅に帰ると、夕希子姉ちゃんの家の匂いがした。ここは私の家なのに。姉ちゃんと同じ柔軟剤と香水を使っているから当然なのだが、いつもと少し違った、私が格別にいい匂いがすると思った日の匂いだった。
昔、今日はいつもよりもいい匂いがするね、といえば決まって彼女はこう答えた。"彼が来たあとだから、多分彼の匂いだね"と。
あぁ、そうだったのか。
だから、初めて彼の匂いを知った時随分と懐かしい匂いだと思ったのか。
きつくないはずなのにしっかりと私の鼻の奥に残る系さんの匂いに私は囚われたままで。
考えないようにしようと思っても、この匂いがそうさせてくれない。消そうと思って消臭剤を手に取るけど彼の匂いが消える恐怖が私の手を止めた。
「どんだけ、好きになっちゃってるの…」
馬鹿げた話だ。3日でこんなに恋には落ちない。今までだってそうだった。8年前、いや夕希子姉ちゃんに恋人ができてからというもの恋はしていない。
そう考えたら、もしかしたら私は8年前から夕希子姉ちゃんの恋人に恋をしていたのかもしれないと思った。
そんなことないとは思わなかった。
いつだって夕希子姉ちゃんの話す彼は不器用でだけど優しい。こんな人なら夕希子姉ちゃんを幸せにできると思っていた。
だけど話を聞く程にこんな人に私も愛されたいと思うようになった。私は顔も知らない彼の面影に恋をしていたのだと思う。姉ちゃんの話を聞き始めた10年前からずっと。
そんな私の理想とする彼が目の前に現れたのならこんなに早く恋に落ちても不自然じゃない。
不自然じゃないんだけど、それは私が愛してはいけない人。
そんな狭間に私は立たされた。
今までの方が随分楽だった。想像の中で分からない犯人を見つけては何度も手にかけていたあの時の方が。
今目の前に犯人だと思って追いかけていた人の姿があるのに、私はそうできない。もどかしくて、だけどそれ以上に苦しかった。
.
600人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
青龍 葵(プロフ) - 誤字でしょうか?P58の最後、六郎の家にて「一人のの重みがなくなったソファに…」の「一人のの重み」→『の』多いのでは?一度、確認してみて下さい! (2018年3月22日 3時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
烏龍茶(プロフ) - 雫さん» コメントありがとうございます!返信が遅くなってしまい申し訳ありません!!面白いと言って頂ける作品をお届け出来て良かったです。続編の方もよろしくお願いします! (2018年3月22日 0時) (レス) id: 574d66a4d8 (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - 面白かったです!続き、お待ちしてますね|´-`)チラッ (2018年3月21日 12時) (レス) id: a9d8810827 (このIDを非表示/違反報告)
烏龍茶(プロフ) - ぷりんさん» プリンさん!!!!!!私の記憶にはしっかりと…。感動的な終わり方と言っていただける作品を作ることが出来て本当に良かったです!私の文章が好きだなんて私には勿体無いお言葉ですが、支えにこれからも書かせていただきますね(;_;) (2018年3月21日 10時) (レス) id: 574d66a4d8 (このIDを非表示/違反報告)
烏龍茶(プロフ) - しばさん» コメントありがとうございます!涙を流していただけるなんてホントになんだか書いてよかった!と思いました!なんて嬉しい言葉ばかりくださるんですかね…(*´-`*)続きも新作もお待ちください、ぜひこれからもご愛読いただければと思います! (2018年3月21日 10時) (レス) id: 574d66a4d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:烏龍茶 | 作成日時:2018年3月18日 19時