伝 kn ページ11
kn side
『き……きんとき…？』
そう言われハッと我に返った。
何やってんだ俺は、好きな奴を押し倒して。
直ぐに
早く言い訳しろ俺、まだ間に合う。
でないと今まで築き上げてきたものが全て無駄になるんだ。
「あ、あー……ごめんごめん。ちょっと今日体調悪いみたいでふらついたらこうなった」
『…え、大丈夫？私帰った方がいいよね』
そういってAはゆっくりと起き上がった。
��押し倒してしまった��
そう思い出す度顔が熱くなるのが分かる。
我ながら情けない話なんだけど。
だからやっぱ意識してんのは俺だけなんだと思うと顔を見れない。
「ん……うつすと悪いしね」
『 …分かった』
身支度を整え部屋を出ていこうとするA。
その背中を見てたらなんだか少し寂しくなった。
……ああ、そうだった。
ここ俺の部屋だったっけな。
どんな口実で呼んだんだっけ。
それすらも忘れてしまうほどに俺は動揺しているみたいだ。
『ねぇ、きんとき』
急に名前を呼ばれて驚いた。
彼女はもう玄関を出る
少し冷たく「なに？」とだけ返し、何を言うのやらと身構えた。
『あのね、えーと……』
「ん？」
『その、あれなんだけど』
「あれってなに？」
『えぇと……だから、あの……』
なかなか用件を言わないA。
何が言いたいんだろうか。
『お大事に』とか『気をつけてね』とか？
なんて
『っだからぁ、私きんときが好きだからぁ！』
それだけ言い残しバタバタと勢いよく音を立てて出て行ったA。
「え……はぁ！？」
と言った時にはもう遅かった。
なんて事を言ってくれるんだ彼女は。
あーあ、傘立て倒れてるし……
返事もさせてくれないし……
「俺も好きだっての……」
メッセージアプリには‘‘ごめん忘れて’’との文字。
さて、どうやって伝えようかな。
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作者名：れもん | 作成日時：2018年10月31日 17時
