reminiscence..【佐野万次郎】 (ページ46)

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その頃私はというと、家に着くや否や一直線へと自分の部屋に駆け込み荷物を雑に下ろすと道着へと急いで着替えた。

「Aー、ただいまくらい言えー」

そう言いながらドアノブに手を掛けるのが分かった。

櫂にとって私はきっといつまでも小さくて可愛い妹なんだろうけどいくら血の繋がった兄妹でももう下着姿を見せるのはさすがに恥ずかしい。
ノックもせず勝手に入ってこようとする櫂に私は咄嗟に叫んだ。

『開けちゃダメ！！変態っ！！』

「お兄ちゃんに向かって変態ってなんだよ！」

『変態は変態でしょ！私もう小五だよ？！いつまでも小さい子扱いしないでよっ！』

「はぁ〜ショック。もうあの頃の可愛いAちゃんはいないのか。あー分かったよ、せっかく道場まで送ってやろうと思ったのによ…」

私は"はぁ〜ショック"の後からは聞き流しつつ、最後の言葉にはしっかりと反応した。
帯紐をギュッと締めると勢いよくドアを開けて顔を出した。
すると、櫂がにやつきながら立っている。

『送ってくれるの？！』

「って思ってたんだけどなーどーしよーかなーー」

悪戯な笑みを浮かべながら答える櫂に対して私は必死に懇願した。

『変態は撤回する！だから送ってよ〜お〜ね〜が〜い〜！！』

「どぉ〜しよっかなぁ〜ん」

『あ、じゃあ！櫂の言うこと一つだけ聞く！だから〜！』

「おっ、言ったなー？(笑)じゃーあ、んー……」

そういうと櫂は腕を組み目線を右上へと向けた。
そして十秒程経った頃だろうか、櫂はにやりと笑うと目線を私へと戻した。

『…なに？』

「じゃあ、可愛く"お兄ちゃんお願い♡送って欲しいな♡"って言って」

「は？」

30分後、櫂のバイクで万次郎宅兼、佐野道場に着いた私達。
バイクのエンジン音を聞いてか真兄が出迎えてくれた。

「よっ！」

「おう、」

『……』

「ん？どしたA、その膨れっ面は(笑)」

『ナンデモナイ。…櫂、真兄にアレ見せたら知らないからね』

「え〜？(笑)」

「なにアレって。すげー気になるじゃん」

『気にしなくていいのっ！忘れて！じゃ私行くから！！』

そう言い残して私はバイクから降りると櫂達に見向きもせずに道場へと向かった。

『(あ〜最悪！)』

引き戸に手を掛け道場へと上がると畳のいい香りがむしゃくしゃしていた気持ちを鎮めてくれた。
私は"フゥ"と小さく息を吐き気持ちを切り替えると先生を探しに探索した。