オムライス ページ6
「夕飯は何が食べたい？」
しばらく談話室で、交流を深めるためにと濃い面々に囲まれながら過ごしていたせいか、すっかり疲弊しきっているAに臣が少しだけ腰を折り、目線を合わせて優しく問いかけた。
「Aの好きなものを作るよ」
Aは臣の笑顔に少しだけ戸惑った表情を浮かべて、視線をフローリングの床に落とす。そして暫くの沈黙のあと恥ずかしそうに、ぼそりと呟いた。
「……お、オムライス」
「分かった。オムライスな」
それを聞いた臣は彼女の返答に目を細めて微笑み、形の良い小さな頭をポンポンと撫でてからキッチンへ。その光景はさながら、兄妹のようで微笑ましく。Aの隣でコーヒーを飲んでいたいづみは思わず、くすりと笑みをこぼした。
「Aチャン、オムライス好きなんすか？」
「好きですけど……それが何か？」
ただ、団員に対する彼女の冷めた態度は相も変わらず。
Aと少しでも仲良くなろうと、人懐っこい笑みを浮かべて此方に駆け寄ってきた太一に素っ気なくそう言い返す姿にいづみは再び頭を抱える。
「うっ、Aチャンはクールビューティッス」
「流石はバカ犬。めげないね」
それでもポジティブ思考の太一に夏組所属の瑠璃川 幸がさらりと毒舌を、対するいづみはほっと安堵の息を吐き、心のなかで盛大な拍手を送りたくなった。
「もー、どうしてそんな言い方ばっかりするの！」
「別に、姉さんには関係ないでしょ」
「あ、またそんなこと言う！」
彼女の態度に、いづみが姉として注意するもAは拗ねた子供みたいにそっぽを向いてしまった。
「ったく、いつまで経ってもガキはガキのままだな」
その様子を遠くから眺めていた左京が呆れたように、眼鏡のブリッジを片手の中指で押し上げた。
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
