思い出し笑い ※6/28内容一部変更有り ページ18
「すみません、少しの間だけお邪魔します」
頭を深々と下げて挨拶をすれば、冬組の皆さんは口々に、よろしく、と挨拶を返してから稽古を再開し始めた。それから数十分。何をするでもなく、レッスン室の隅っこに腰を下ろして稽古の様子をぼんやりと眺める。
「御影、さっきの台詞をもう一度頼む」
「分かった」
劇団の存続を賭けたタイマンACT。絶対に負けられないと言う気持ちが強く、稽古にも一段と熱が入っているように見える。
私の居た劇団はそれなりに知名度はあったけれど、とても小さいところだったし、タイマンACT等も滅多にしたことがなかったからあまり参考にはならないかもしれない。けれど、一生懸命、稽古に取り組んでいる皆さんの姿を見て、それに感化されたのかもしれない。
何か、少しでも力になりたいと思ったのだ。
「ねえ、姉さん。千秋楽って確か、GOD座の劇場でやるんだよね？」
隣に立っていた姉さんに問い掛ける。すると姉さんは少しだけ驚いたような表情をしたあと、途端にパアッと瞳を輝かせて嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「気になる？！」
「ちょっとだけ……」
ぐいぐいっと一気に顔を近づけ、興奮を隠しきれないでいる姉さんに気押されながら小さく頷く。
「GOD座の劇場ってどのくらい広いのかな……？」
私の質問に答えるため、姉さんはジャージのポケットからスマホを取り出し、GOD座の劇場を検索して見せてくれた。
「かなり広いよね」
確かに、姉さんの言う通りだ。GOD座の劇場はMANKAI劇場よりも、私の所属していた劇団の劇場よりも遥かに広くて華やかであった。だとすると――――
「細やかな動作は、後方に座るお客さんには伝わりにくいかも」
「そうだよね。やっぱり、Aもそう思ったんだ」
「うん……」
劇団のなかでも一番、私を可愛がってくれていた兄貴分がちょうどこのくらいの大きな劇場で物静かで動作や台詞の少ない役を演じたことがあった。その時の兄貴分は遠くの客席から自分はどう見えているのかを気にして、悩みに悩んでいたことを思い出す。
自分の役をどう表現しようか。頭を抱え、唸りながら悩んでいた彼の懐かしい姿を思い出して自然と笑みが溢れた。
はじめのいっぽ ※6/28内容一部変更有り→←騒がしくなる心臓の音 ※内容一部変更有り
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
