月に恋せよ暦ガール 【4】

月恋 第186話 「啖呵を切る」 ページ43

帰省して、新さん達と電話をしたその日の夜更け。本当に翌日のために父が珍しく、日付を跨がぬうちに仕事から帰ってきた。

ガチャガチャと鍵を開ける音が静か過ぎる廊下に響き、その音により私はうっすら目を覚ましたのである。しかしながら、もう夜も遅く、父が帰宅したことよりも睡魔が勝ち、そのまま父の顔を見ることなく熟睡。

その翌朝、寝ぼけ眼を擦りながら居間へ行くと既に険しい顔した父が待ち構えており、起床時間が遅いだの、夏休みに入ったからとだらけるなだのと言われ、説教タイムへ突入。

起床時間から夏休みの生活態度へ、そこから学習面に話が変わったと思ったら直ぐに成績表を持って来いと言われ、鞄から取り出し見せるも矢張りまたぐちぐちと説教を垂れられる。

少し弛んでいるのでは無いか、それもこれも芸能活動と言ったチャラついたことをしているからだ。勉強に集中するため、良い高校、良い大学へ行くために今すぐその芸能活動を辞めるべきである、と散々言われ、どちらかと言うと短気で喧嘩早い私はとうとうぶち切れた。

親子揃って口喧嘩に強く、負けん気も強い。そのため喧嘩も激しく、口論が口論を重ねてヒートアップし、このまま言い合っていても埒が明かないと判断した瞬間、とうとうどちらからともなく手や足までもが出るのである。

今回は父さんからであった。

バチンッ、と何かが弾けた様な音が家中に響くと同時に、私の右頬に電気が通った様な痛みが走り抜けた。

幾ら身内だからと言っても、私だって生物学上の女子である。しかもアイドルの仕事をやっているのだ。顔に傷でもついたらどうしてくれる。

父さんの平手打ちを食らったと分かり、痛みと苛立ちで顔を歪ませる。多少の力加減はされているものの、私の中で叩かれたことによる怒りが追加された。

目には目を歯には歯を、イエスハンムラビ。やられたらやり返す、倍返しだ!が暦屋家の喧嘩の仕方である。

私は平手打ちの倍返しだと言わんばかりに、父の脇腹へ思いっきり蹴りを入れた。

そして纏めて近くに置いてあった荷物を片手に持ち―――

「出てく! あと、アイドルの仕事は絶対に辞めないから!」

と啖呵を切り、父さんの制止も聞かずして私は再び家を飛び出したのである。

月恋 第187話 「突き刺さる痛み」→←月恋 第184話 「ぶっ飛んだ思考回路」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す