月恋 第187話 「突き刺さる痛み」 ページ44
新幹線の中で父に叩かれ、赤く腫れてしまった頬に先程買った小さな湿布を貼る。
幾らお休みを貰ったからと言えど、いつなんどき、突然仕事が舞い込んでくるかは分からない。出来るだけ早く赤みを取るために、湿布を貼ることにしたのだ。
ただ、この状態をツキノ寮の皆さんに見せるわけにはいかない。優しい皆さんのことだから絶対心配されるし、勘の鋭い始さんや隼さんなんかには、父親との確執がバレてしまう気がした。
「つ、着いてしまった」
どうしようどうしよう、何か良い誤魔化し方は無いか、悶々と考えているうちにいつの間にかツキノ寮へ帰って来てしまっていた。
もう仕方無いから、変な転び方をして頬をぶつけたと言うことにしよう。と一人、勝手に結論を出して、いざツキノ寮へ足を踏み入れた時である。
「あ、Aちゃん、おかえ―――」
運悪くエコバッグとお財布を片手に持った夜さんに遭遇。私の顔を目にするなり、ボトボトボトッとその二つをフロントの床に落とし、目を見開いて硬直してしまった。
「ど、どどど、どうしたのその頬!!」
暫く口を金魚のようにパクパク、開いたり閉じたりしながら驚いていたが、ハッと我に帰り私の近くまで走り寄ると、その大きくも長くてしなやかな指を持つ手で優しく私の両頬を包み込んだ。
「あの、少し変な転びかたしちゃって。その際に家の太い柱に頬をぶつけてしまったんです」
この言い訳は少し無理があるかもしれないと思ったものの、父と喧嘩して叩かれたと、本当のことを告げてしまうよりもマシかもしれない。
「そっかそっか。痛かったねぇ。今、冷やしてあげるからね?」
夜さんは柔らかい笑みを浮かべた後、床に落としてしまった財布とエコバッグを素早く自分のズボンのポケットにしまいこみ、私の荷物が入ったスポーツバッグを私の肩から下ろし、自分の肩へと掛ける。
「夜さん、荷物は自分で持ちます。それに買い物が………」
「このくらい俺が持つし、買い物は後でも出来るよ。今はAちゃんの方が先」
父さんと大喧嘩した後だと言うこともあり、心にも、腫れた頬にも彼の優しさが染み込んで、私の涙腺を崩壊させた。ボタボタと大粒の涙が私の瞳から溢れ落ち、フロントの床に一つ一つ、シミを増やしていく。
「え、Aちゃん?! そんなに頬痛む?」
そんな私に夜さんは更に大慌て。
「いたい」
痛いのだ。こんなにも優しい夜さんに私は嘘をついた。その事実が私の心に突き刺さって、とても痛い。
月恋 第188話 「自分勝手な嘘は人を傷付ける」→←月恋 第186話 「啖呵を切る」
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櫻餅(プロフ) - ♯鈴音色♭さん» コメント有難う御座います!お話だけでなく夢主までも好きだと言って頂けて嬉しい限りです。また少しずつですが更新していきたいと思っておりますので、続編も宜しくお願い致します! (2018年11月5日 18時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
♯鈴音色♭(プロフ) - 桜餅さんおかえりなさいです! このお話も主人公ちゃんも大好きなので、続編お待ちしています!! (2018年11月5日 17時) (レス) id: b160fc2e68 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - 深海さん» 返信が遅くなってしまい申し訳無いです。朏さんとのお話は自分も楽しく書いていたので、そう言って頂けて大変嬉しい限りです。中々更新が最近出来ていませんが頑張って行きたいと思います。コメント有難う御座いましたm(__)m (2018年8月27日 20時) (レス) id: fb6a326e77 (このIDを非表示/違反報告)
深海(プロフ) - 読んでいてとても楽しくなりました。特に朏さんの辺りの話が好きです。これからも楽しみにしています、更新頑張ってください。 (2018年8月25日 0時) (レス) id: 5947186a26 (このIDを非表示/違反報告)
ピヨコ - 丁寧に教えてくださって有難うございます。成程、私も試してみます。これからも頑張って下さい。応援しています。 (2018年8月4日 9時) (レス) id: 0464d791fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年4月15日 23時